「すでに各地にレストラン列車が走っていたので、当時の担当者があちこち視察をしながら、いわばいいとこ取りをして『52席の至福』の骨組みを固めていきました。
観光列車にもいろいろありまして、車内で食事といってもお弁当を出すようなところも多い。ですが、『52席の至福』ではフルコースの温かい料理を提供することにこだわりました」(松浦さん)
想像以上にハードルが高い「列車内でのコース料理」
ただフルコースを提供するだけではない。「52席の至福」では、3か月ごとに料理を監修するシェフを替えているのだ。季節を感じられるメニューを取り入れ、また沿線の食材を使うのは当たり前。定期的に監修者を替えることを繰り返し、“飽きさせない”仕掛けになっている。
「他のレストラン列車を見ても、メニューこそ季節ごとに変えていても監修者はずっと同じだったりしますよね。でも、『52席の至福』ではそうはしませんでした。監修していただくシェフの方を探すのも大変ですが、最近では『52席の至福』の料理監修をしたことがひとつの経歴になると喜んでくださることも増えています」(松浦さん)
列車内で温かいコース料理を提供するのは言うほど易いことではない。「52席の至福」は1~4号車から成るが、そのうち3号車はキッチンになっている。つまり車内で調理をすることができるというわけだ。が、いくらキッチンを持っていても車内でできることには限りがある。
「シェフが美味しいと思って作ってくださるお料理をいかに車内という環境で再現できるか。車内のキッチンでは火を使えるわけでもないですし、スペースも限られている。
2時間半から3時間という運行時間の中で召し上がっていただかなければならないので、時間の制約もあります。そうした中でも、質の高いお料理を提供する。そこにはこだわりを持っています」(松浦さん)
実際のオペレーションでは、別の場所である程度までの仕込みを終えておき、車内で最後の仕上げを行っているという。ただ、メニューが3か月ごとに変わるため、オペレーションはその度に検討し直さねばならない。
どこまで仕込んでおくか、車内ではどこからどこまでできるのか。不測の事態への対応はどうなのか。そうしたことを日々突き詰め続けてきた10年間、というわけだ。

