2024年シーズン、西川選手は104試合出場してプチブレイク。乗車できるのは抽選で当選した人だったが、倍率は20倍を超えたというからなかなかのもの。ライオンズという西武グループきってのコンテンツと、西武線の看板となった「52席の至福」のコラボ、人気にならないわけがない。
「ずっと同じことをやり続けていても飽きられてしまいますからね。3か月ごとに監修のシェフを変えながら、秩父と都心を結ぶという基本は変わらず、その上でアイデア次第でいろいろなことができるなと最近は思っています。
去年の10月以降で3件ぐらい結婚式もやり、非常に盛り上がりました。そういう機会は今後も増やしていければと。デビュー当初のことを考えると、まさかシンガポールとのコラボをやるとは思いもしなかった。想像以上に役割が広がっていると感じます。今後も……可能性は無限大ですね。線路は繋がっていますから」(松浦さん)
「東京発の観光列車」が10年続く理由
「52席の至福」が走るのは、西武新宿・池袋~西武秩父間。飯能~西武秩父間は山間部を走り、牧歌的な車窓が目に美しい。
そこからだんだんと都市部に入り、ターミナルの所沢、またさらに東京都内に入っても新宿線なら田無に上石神井、池袋線なら練馬といった住宅地を駆け抜ける。新宿・池袋については言わずもがなだ。
東京の都心と秩父の山の中。その間に広がるのどかさも兼ね備えた沿線地域。その移り変わりも、実はなかなかダイナミックでおもしろい。都市部の駅を通過する折に、窓の向こうのホームで電車を待つ人々を横目にちょっぴり優越感を覚えるのも、「52席の至福」ならではといったところだろうか。
10年も屈指の人気を誇る観光列車として走り続ける「52席の至福」。松浦さんは、「東京にお住まいでもまだこの列車を知らない方がたくさんいる。もっと多くの方に知ってもらって、より多くの方に乗りたいと思ってもらいたい」と力を込める。それだけ、この列車には自信を持っているのだろう。
ちなみに、西武鉄道は2020年にJR東日本と包括連携の協定を結んでいる。となれば、もしかするといつの日か、「52席の至福」が西武線から飛び出して……なんて日が来たっておかしくはないような。つい妄想をたくましくしてしまう。果たして、実現することはあるのだろうか……。
写真=鼠入昌史
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