刺激的なタイトルの通り、本書は出会い系サイトを介して知り合った人に本を薦めまくった実体験に基づく仰天の実録小説。作者の花田菜々子さんは現役の書店員というから驚きだ。
「私の体験談をおもしろがって聞いてくれる方もいれば、『危険だ』と苦言を呈する方も勿論います。物騒なニュースが報じられることもありますが、出会い系サイトで事件に巻きこまれる確率と路上で交通事故に遭う確率はきっと同じ位ではないでしょうか。ツイッターのオフ会でも知らない人と会えるけど、もっと荒っぽい手段でなければ、私の“傷”は癒えないという直感があったのです」
2013年冬、夫に別れを告げて家を飛び出した花田さんは、当時働いていた「ヴィレッジヴァンガード」の仕事にも行き詰まりを感じていた。ままならぬ日々を送る中、ふと目に留まったのが「知らない人と30分だけ会って話してみる」という出会い系サイト「X」だった。
「私の人生を客観的に見ると、夫婦関係は上手くいっていないし、仕事も楽しくない。かといって、夢中になれる趣味や充実したプライベートがあるわけでもない。『あ、何もない!』とゾッとしました。ヴィレッジにいる限りは、話す内容も考えていることも、だいたい同僚と一緒です。もし違う空間に身を置いたら、どんな言葉を他人から聞けるんだろう? 逆に私は他人に対してどういう言葉を発するんだろう? と思って。今いる場所から抜け出したいという気持ちから、『X』に登録しました」
プロフィール欄に個性を出すため、悩んだ末に書いたのは「今のあなたにぴったりな本を1冊選んでおすすめさせていただきます」。エロ目的の人、平気で嘘をつく人――「X」は魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界かと思いきや、フリーの写真家を目指す女の子に励まされ、笑顔のすてきな映像作家と意気投合し、優しい女性のコーチングを受けて号泣もした。人との出会いを繰り返すうちに、本の薦め方にも変化が生まれたという。
「アマゾンのレコメンド機能のような主観のない紹介が主流になりつつある今、人間が本を薦める意義を考えると、生の言葉を混ぜ込むことなのかな、と。『なぜこの人に、この本を紹介するのか』という部分を省略せず、ポジティブな言葉で伝えることが、本と人を繋ぐ接着剤になる。読書のモチベーションも高まるし、その本の付加価値になると思うんです」
『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』
仕事も私生活もままならず、鬱屈した日々を送る中、ふと目に留まった出会い系サイト「X」に登録。「今のあなたにぴったりな本を一冊選んでおすすめさせていただきます」という売り文句を携えて、見知らぬ人に会い続けるうちに“なりたい自分”が見えてきた。奇想天外な実体験に基づく実録私小説。