常連客・大相撲の剣晃関が「ママ、エッチしようよ」って

 客や従業員など人の縁にも恵まれた。30年以上にわたる水商売で出会った客の中にはちょっと変わった常連客の名前もあった。

「お店を始めた最初の頃、大相撲の剣晃関がそれこそ毎晩のように飲みに来てくれてました。それからは毎晩、私が車で送っていくことにしました。ただ、私が乗っていたのは普通の軽自動車だったので、剣晃関を助手席に乗せると車がグンと沈み込んでもう壊れちゃうかと思ってドキドキしましたね」

在りし日の剣晃関 ©時事通信社

 当時、剣晃は横綱・曙関の太刀持ちをやっており、土俵では「角界のならず者」と呼ばれるキャラクターだったが、普段はとても穏やかで、店ではママと艶っぽい冗談を交わすようなこともあったという。

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「剣晃関が明日は小錦関と対戦するっていう夜、怖い怖いって震えながら飲んでいて、『ママ、エッチしようよ』って言ってきたことがありました。もちろん冗談ですがノリで『じゃあ、勝ったらそういうことしようか』って返したんですけど、剣晃関は『でもな、ママ、実は勝ったら女なんかほしくないんだ』なんて言って笑っていましたね」

ヤクザ屋さんもたくさん飲みに来たけれど

 とはいえすべてが順風満帆だったわけではない。夜の街にはトラブルがつきものだ。ましてきいこさんは何の後ろ盾もなく水商売を始めている。1992年に暴対法が、2011年には東京都の暴排条例が施行されるなど、夜の街から反社会勢力が締め出されつつあったが、それでも反社会勢力との関係は神経を使うものだった。

「西葛西に進出した頃から、ヤクザ屋さんもたくさん飲みに来ましたが、お客さんとして以外に付き合ったことはありません。私は九州生まれで正義感の強い両親に育てられて怖いもの知らずでしたから、そんな性格が伝わっていたのかもしれません。最初の頃はチンピラに『店の前に糞尿まき散らすぞ!』なんて脅されたこともありましたが、『どうぞご自由に。でも今のセリフは録音しましたから葛西署に届けておきますね』なんて言い返してました」

 波乱万丈の水商売はビジネスとして大成功となった。2010年代に入って以降も客足が途絶えることはなく、グループ店の経営は順調だった。それでも2020年、きいこさんはすべての店を閉めて水商売の世界から身を引く決断をした。

「やっぱりコロナが大きかったんです。夜の店は大ダメージを受けてどうしようもなくなって、緊急事態宣言が出る前の2020年の3月25日に閉めました。自分も70歳近い年ですし、命の方が大事ですからね。未練はなくて今は全部がいい思い出です。来てくれたお客さんや働いてくれた女の子たちに感謝しています。

 ただ、コロナが落ち着いた最近は、昔のお客様から『またZEROのような店を開けてよ』という要望が多いの......私もまだ元気だから、一緒に組んで面白い店をしようという方がいたら、ご連絡欲しいわね」と再度の挑戦にやる気を見せる元気な大ママは健在だった。

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