グランド・キャバレー。きらびやかな広々空間でホステスたちと酒を飲み、手品や歌謡、ダンス、ヌードショーを眺め、チークタイムともなれば生バンドの奏でる『メリー・ジェーン』にのって、彼女たちと頬寄せ踊る社交場。古式ゆかしく、豪奢に響くこの言葉、東京ではほとんど人の口に上らなくなってしまった。だからこそ私は、その魅力や歴史、人の声を今に伝えてみたいと、時々文章に書いたりもした(拙著『盛り場で生きる』では、あるキャバレー王の物語を書いた)。

 そうこうしているうち、銀座、蒲田、赤羽、北千住と老舗の閉店が相次ぎ、3年前、歌舞伎町に残っていた最後の一軒がネオンの灯りを落としたことで、都内から歓楽の箱は姿を消してしまった。ああ、もう昭和の雄姿を伝えられない……かと思ったけれど、いや違いましたね。まだ西に健在なのでした、大阪に。

 ということでやってまいりました淀川の北のほとり、下町の歓楽地・十三(じゅうそう)。こちら「グランドサロン十三」へ。私があれこれ書きだすよりも、まず絢爛たるしつらえをご覧いただきたい。

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完全な様式を備える古色蒼然たるグランド・キャバレー「グランドサロン十三」
きらびやかなシャンデリアが目立つ
「グランドサロン十三」の外観。看板もド派手に輝く

「人生で大切なことは、何回息をするかじゃなくって、何度息を飲む瞬間に出会えるかなの」とビヨンセは言ったとかいうけれど、もう、まさに。完全な様式を備える古色蒼然たるグランド・キャバレーには数えるほどしか行ったことがない40代なかばの私は、エントランスから一歩足を踏み入れた瞬間息を飲み、古い映画館のように箱にしみつく香気を吸って胸高鳴り、もう一歩奥へ進んで視界がひらけるのと同時に、心踊った。いや、飛び跳ね、爆発した! なんだあのシャンデリアは! 2階席は!

 幾万の男たちが感じてきた高揚を私もいっぱしに感じられたところで、これから歴史や背景についても綴りますよ。そのあたりを知ると一段興味も深まるかと思います。