大阪市淀川区の北のほとり、下町の歓楽地・十三(じゅうそう)にあるグランド・キャバレー「グランドサロン十三」。1969(昭和44)年創業当時の豪華絢爛な空間を維持したまま営業を続ける、貴重なキャバレーだ。
この店に勤める現役ホステスたちと、50年近く通い続ける常連客・藤井基義は、キャバレーの趨勢をどう見ているのか。そしてなぜ、今なおキャバレーという箱に身を置き続けているのだろうか。まずは藤井に、率直な疑問を投げかけた。
約50年間通い続ける常連客「キャバレーは、男のステータスや」
――昭和40、50年代も飲み屋はたくさんあったでしょうが、なぜキャバレーに?
即答。「キャバレーは、男のステータスや」
ニヤリ、笑みを浮かべる藤井は、この一言から話し始めた。脇で彼の話を聞くホステスたちは誰も藤井さんなどと呼ばず、「大先生」とか「先生」と呼ぶ。むろん、「キャバレーの大先生」という意味だ。
かつては毎日、隠居の身となった今も、週2回、十三に限らず難波へも足を向け、大阪にわずかに残ったキャバレー行脚を続けている。大先生、言葉を継ぐ。
「居酒屋で飲むのはね、草野球と一緒。キャバレーで飲むのはね、甲子園球場で野球やってんのと一緒なんです」
ベテランホステスたちは先生の顔を見、笑みを浮かべる。つかみはOK。
「居酒屋で飲んどったら、自分1人が楽しいなと思うだけですよ。楽しさはまあ100点満点で10点ぐらい。ところがキャバレーやったらね、甲子園球場の大観衆がおーっと拍手するようにね。『あー楽しいです、あー面白い』とかホステスが言うてくれるわけですよ。面白さが、5倍、10倍になるんですよ」
ホステスたちにまんざらでもない顔をさせ、続けざま、昭和後期の大阪キャバレー事情を語る大先生。