第一等の文化財を体験できる場所
さて、繰り返しキャバレーは第一等の文化財などと書いてきたが、遠巻きに鑑賞だけするのなんてもったいない。十分書いてきたのでもういいでしょう、ここは現役店。ワンセットだけ歓楽をいたしてシメといたします。
ああ疲れた~! ナツエさん! ハイボールお願いします!
「はいよ」と彼女は慣れた手つきでサントリーレッドの大瓶からトクトクとウイスキーを流し込み、大阪能勢の名水で仕込んだノセミネラルの強炭酸を注ぐ。おっと横を見ると大先生もこれからお楽しみのようだ。奥のソファへともえさん、りつこさんを引き連れ、美しい曲線の通路を伝っていった。
大ステージでデュエットする「居酒屋」、最高すぎる。
オーナーとは「奇跡の地球」をデュエット。
――帰り際、お見送りに出てくれたともえねえさんがポツリ言う。「私、まだいけるかな?」50年いけたんです、当たり前じゃないですか。藤井大先生は奥のソファでまだ歓談中。
「……ほんで、ビール瓶でホステスにあたまどつかれて、まっさらなカッターシャツ血だらけになってな、ポケットビリビリ、ボタンもみんなぶわー飛ばされて。でも翌日2人で同伴して店へ行ってな……」
笑い声に包まれ、ランプの下で静かに水滴をしたたらせている大先生の水割りグラスは、あらゆる美術品に負けない、やはり第一等の、この国の文化財そのものとして輝いていた。
撮影=細田忠/文藝春秋
参考文献:『昭和キャバレー秘史』(福富太郎著、文春文庫PLUS、2004年)
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