高級車であるベンツを見てターゲットに

 ここで王亮が5月31日に購入した2個の手錠が、A家一家の死体遺棄に使用されているのだ。王はさらに6月18日、同じ店で新たに手錠2個とダンベル2セットを購入しており、それらの購入時の状況が店内の防犯カメラに残されていたことが、犯人特定に繋がったのである。

 冒頭陳述はいよいよ“本件”である、「福岡一家4人殺人事件」の〈共謀状況等〉について触れている。

〈1 楊寧は、かねて、アルバイト先へ徒歩で出勤する途中にA方前を通った際、A方に高級車であるベンツが駐車してあり、深夜、(Aの妻である)Bがこのベンツを運転して帰宅するのを目撃したこともあったことなどから、同女が、高級な飲食店等の経営者であり、高級車を所有していることから数千万円程度の銀行預金等を有するに違いないなどと考え、平成14年(02年)ころには、A方を強盗に入る対象として意識するようになっていった。
 

 楊寧は、同15年5月から6月にかけて、王亮と共に種々の犯行計画を話し合ううち、自分達に関係のあるところをねらえば、すぐに自分達の犯行であると警察に疑われることから、無関係なところをねらう方が良いのではないかなどと考え始め、自分達とは無関係のA方に強盗に入ることを提案し、王亮と共にA方の下見を重ねるなどした。そして、王亮と楊寧は、深夜ベンツに乗った家人が帰宅する際に、同時に室内に侵入し、刃物等で家人を脅し、手錠等を用いて家族全員を緊縛し、キャッシュカードを奪って暗証番号を聞き出し、被害者方にある紐類で家族全員を絞殺して、被害者方のベンツを使用して、その死体を他所に運んで遺棄するとともに、ベンツを処分するなどして犯跡を隠蔽し、翌朝、王亮がATMで奪ったキャッシュカードを使用して預金を引き下ろすという犯行の計画を練り、その過程において、前記のとおり、ツルハシや手袋等を購入するなどして犯行の準備を進めていた〉

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 あくまで犯行後の聴取によって作成された冒頭陳述であるが、ベンツが停められているから裕福な家庭だと思い込み、警察の捜査が及びにくいから、自分達とは無関係な家を選んだ、という点については、ほんとうにそうだったのか、との疑問符が浮かぶ。