目的とリスクが釣り合わない犯行計画

 また、当初からキャッシュカードの暗証番号を聞き出してから家族全員を絞殺し、遺体を遺棄する計画があった、との事前計画についても、目的とリスクのバランスがとれていないように思えてならない。だが、そのことへの言及はなく冒頭陳述は続く。

〈2 そのころ、王亮及び楊寧は、本件犯行を二人で実行に移すのは無理であると考え、散打(中国式ボクシング)の経験者で腕力が強い上、従来から自分達と共に窃盗等の犯行を繰り返してきた被告人を本件犯行に加えようと考え、被告人を誘うことにした〉

 ちなみに、魏が散打の経験者であるとの事実はない。そのことから、これは、魏を犯行に誘った王と楊への、中国での聴取に基づいた説明であることが予想される。ただし、そうした流れで出てきた内容であるため、なぜこのような説明になったかについては、検証することができない。

〈3 被告人は、平成15年6月16日ころ、王亮と楊寧の両名が居住するアパートに両名に呼ばれて赴き、王亮及び楊寧から、本件犯行計画を打ち明けられて、犯行に加わるよう誘われた。被告人は、それまで繰り返してきた犯罪行為によって多額の金員を得ることができなかったため、依然として金に困っていたところ、王亮及び楊寧の両名から「少なくとも1人100万円、それ以上の何百万円かの分け前をもらえる。死体を隠してしまえば、警察が捜査を始めることすら難しい。道具を揃えたり、銀行でお金を引き出したりするのは王亮がやるから、絶対にお前が捕まることはない。」などと言われたため、大金を入手するいい機会だと考え、本件犯行に加担することを承諾し、ここにおいて、被告人を含む王亮、楊寧の3名は、本件の謀議を遂げた〉

A家写真

ADVERTISEMENT

 なぜ王と楊がA家からそれほどの金額を奪えると考えたのかという根拠は、極めて薄い。理由として説明されているのは、楊がベンツに乗るBさんを見かけたことから、〈同女が、高級な飲食店等の経営者であり、高級車を所有していることから数千万円程度の銀行預金等を有するに違いないなどと考え〉た、ということにとどまっている。だが、このくだりについても、王と楊が中国の公安当局に拘束されている状況下にあるため、日本で行う公判内での検証は不可能である。