東海道線より前からあった「蛇松線」の知られざるその後
東海道線開業後も蛇松線は残され、最初は狩野川沿いにあった終点の蛇松駅は戦後港に隣接する場所に移転して沼津港駅と名乗った。
一貫して貨物専用の路線であり、沼津港駅からは多くの水産物を運び、また船の燃料などを港に輸送する役割を担っていたという。
蛇松線が廃止されたのは1974年のこと。水産物や燃料輸送がトラックに切り替わったからだろう。
市街地の中を緩くカーブしながら走っていたその廃線跡はほとんどそのままいまも残されている。一部ではレールも埋め込められたその名も蛇松緑道。港町・沼津の繁栄を支えた歴史を後世に伝えているのだ。
いま、沼津駅と沼津港の間は駅前からの目抜き通りをまっすぐに下っていけば、歩いてもだいたい30分ほどで着く。
さすがに歩く人はほとんどいないようで、午前中の沼津駅発のバスは沼津港を目指す観光客で大混雑だった。ただ、よく晴れた春の日ならば、歩いたっていいではないかとも思う。
かつては城下町、そして宿場町だった面影を辿りながら目抜き通りを歩くもよし、また蛇松線跡の緑道を辿ってゆくもよし。狩野川沿いを歩いても悪くないだろう。
実に地方都市然とした、それでいて東京から新幹線と在来線で1時間という時間距離のおかげか都会的な空気も漂わせる、独特な港町。そんな沼津の空気を味わえること請け合いだ。
そして。駅の北口にはビジネスホテルがいくつもある。観光客向けのホテルというよりは、出張客を当て込んだものだろう。だから、きっと新幹線が停まる三島よりも安いはず。
もしも夜の東海道線、沼津行き。それに乗って寝過ごしてしまっても、絶望することはない。駅北口のホテルに迷わず泊まり、どうせならば翌日は沼津港観光でもしてみるといい。
沼津港よりもさらに南側には、明治期に設けられた御用邸の跡をはじめとする別荘地帯もある。東京からこれほど至近に、まだまだ隠れた観光都市・沼津といったところだろうか。
写真=鼠入昌史
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