TVerが普及して変わったのは見逃した番組を見られるようになったことだけではない。ゴールデンタイムの番組も深夜の番組も、地方ローカル番組もフラットに並べられるようになったことだ。BS放送の番組もそう。そんなこともあってか、BSの番組が元気だ。そのひとつが、3月に全6回が放送された『伊集院光の偏愛博物館(ミュージアム)』だ。曜日も時間も回ごとに違う極めて変則的な放送だったのも、配信があるから構わないという判断があったのではないか。
世の中には何かを愛しすぎた故、自分で博物館を作ってしまう人がいる。そんな私設博物館を伊集院光が訪問する番組だ。出版元のJTBすら保管していない号まで展示する「時刻表ミュージアム」、日本でもちろん唯一の「糞虫」に特化した「ならまち糞虫館」、1928年に開館した「東洋民俗博物館」など常人ではついていけないような極めてマニアックなものばかり。しかし、そこは伊集院。“好奇心のバケモノ”である彼は、極めて優秀な聞き手として個性あふれる館長から展示品のスゴさを引き出していく。さらに、知識の紐づけの達人でもある彼は、語り手としても絶品。そのスゴさを自分事に“翻訳”してくれる。
そんな伊集院が、もっとも前のめりになっていたのが、3月29日放送の第5回で訪れた「絶滅メディア博物館」だろう。今では使われなくなった記録メディア・記録機器を「絶滅メディア」と定義し、2023年に開館された。カメラ・携帯電話・音楽プレイヤーなど約1500点が展示されている。それまで訪れた博物館と違ってユニークなのは、館長が生粋のコレクターではないこと。コロナ禍で断捨離する人がたくさんいたのを見て、捨てるならくださいと呼びかけ集まったものが多いという。伊集院もこの手のものが大好き。訪れる前から「S-VHS、D-VHS、Hi-8……」と呪文のような言葉がスラスラ出ていた。そして、実際に博物館に足を踏み入れると記憶の扉が一気に開く。
「うちの収蔵品、事前に知ってらっしゃいます?」と館長が驚くほど、ひとつの展示品を見ると、それに関連する機器の名前が淀みなく出る。それを必死に追いかけるように「これですね」と展示品を館長が出していきコンビのようになっていたのがなんだか可笑しい。
伊集院は、「糞虫館」を訪れた際、「博物館は広さではなく移動のスピード」だと語っていた。たとえ狭くても、じっくり見ることができたほうが価値があるのだと。まさに「絶滅メディア博物館」でも、充分な撮れ高になっても「まだいれる、全然いれる」と興奮していた。私設博物館は公的なものではないから、作った人の「人」が色濃く出る。その偏った「思い」を伊集院は愛でて、すくっていた。
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『伊集院光の偏愛博物館(ミュージアム)』
BS-TBS 放送終了
https://bs.tbs.co.jp/entertainment/henaimuseum/
