国民の熱狂とは程遠く、万博のテーマが何であるのかも知らない人が大半ではないだろうか。ちなみに、今回のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」となっている。

今回の万博は、1970年の「人類の進歩と調和」から時を経て、新たな調和のかたちを模索する。会場構成は従来のようなゾーニングを廃し、異なる大小のパビリオンが「亀の甲羅のように」つながる斬新な設計が予定されている。

岡本太郎が遺した難題

70年当時、岡本は「日本人は勤勉だが『ベラボウさ』に欠ける」と指摘し、「底抜けなおおらかさ、失敗したって面白いじゃないかというくらい、スットン狂にぬけぬけした魅力を発揮してみたい」と語った。

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この言葉は、当時のみならず令和の日本にも当てはまる。効率や利便性を追求するデジタル社会において、私たちは「ベラボウさ」を以前よりも失っていないだろうか。今回の万博では、サイバー空間と現実空間が融合した世界が展開される予定だ。そこでは、昭和とは違う「進歩と調和の新たな対話」が求められるだろうが、果たして来場者にどこまで響くのだろうか。

太陽の塔は、高度経済成長期の日本人の夢を体現すると同時に、その「対極」としての警告を発していた。そして、それは今なお私たちに問いかけ続けている。技術の進歩と人間性の調和、効率と創造性、リアルとバーチャル……。現代における「対極思想」の意味を改めて考える必要があるとの専門家からの指摘は多い。

「リング」は「太陽の塔」になれるのか

2025年万博の会場中央には「静けさの森」と呼ばれる緑豊かな空間も計画されている。この森はリングの中心点に位置し、約1500本の木々と池が整備される。

空間デザインの担当者は「個性豊かなパビリオンに統一感はないけれど、森がそれらをつなぎとめてハーモニーが生まれる」と語るが、この森もリングと同様に閉幕後は更地に戻される計画である。万博を体験した人たちを結びつける場所であり続けてほしいと保存を訴える声は届いていない。