2025年に開催が予定されている大阪・関西万博。費用膨張や建設の遅れなど、さまざまな問題点が指摘されているが、それでも国家主導のビッグイベントを開催する意義はあるのだろうか。

 ここでは、城西国際大学観光学部の佐滝剛弘教授による『観光消滅 観光立国の実像と虚像』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋。過去に開催されたオリンピック、万博の事例をもとに、観光振興としての意義を考える。(全2回の2回目/1回目を読む)

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オリンピックで人を呼べるか

 2020年に予定され、実際にはコロナ禍で1年延期された東京オリンピック・パラリンピック。そして、2025年に開催予定の大阪・関西万博。これら国家主導のビッグイベントを開催する理由の一つに必ず持ち出されるのが、「観光の起爆剤になる」という売り文句である。たしかに4年に一度しか開催されないスポーツの総合的な大会や5年に一度が原則の大規模な国際博覧会は、一度は実際に見てみたいという気持ちになる人が一定数いるのはよく理解できる。

 筆者は放送局での勤務時代、夏は1988年の韓国・ソウル五輪、冬は1992年のフランス・アルベールビル五輪のときに、生中継や企画番組の制作のため、開催期間とその前後合わせて1か月ほど現地に滞在し、リアルなオリンピックを体験した。地域全体が高揚感に包まれた独特の雰囲気は一度は味わう価値があるかもしれないと今でも思う。まして応援したい選手が出場するとなれば、現地に行ってみたいと思うのは自然な気持ちだろう。五輪ではないが、2024年からロサンゼルス・ドジャースでプレイすることになった大谷翔平選手の観戦ツアーは、実際に盛況を極めている。

 しかし一方で、たった2週間しかない開催期間に、航空チケットも宿泊費も安くない期間中、五輪観戦と周辺の観光地も組み合わせた旅行に大勢の人が行きたいと思うのだろうか?

 ユーロモニターの調査によると、2012年に開催されたロンドン五輪では、開催期間前後の6~8月に外国人観光客がおよそ60万人訪れたものの、8月時点の外国人旅行者数の総数では前年よりも7%減ったというデータがある。

 このレポートでは、「ロンドンオリンピックに魅力がなかったわけではなく、この時期に例年英国を訪れる旅行者のうちスポーツに興味のない人々が英国以外に流れたことが大きな要因である」と分析している。つまり、世間の人が全員スポーツに興味があるわけではなく、スポーツに興味のない人は五輪一色に染まって交通規制や渋滞など通常時より何かと制限の多い開催国に行くよりは、別の国に行った方が良いと考える人が多いことを示している。