――当時WOWOWが映画を作り始めていて、石井さんも何本かやっていたというタイミングだったんですよね。
緒方 そうですね。だから1本映画を作れればいいや、みたいな感じでしたけどね。またテレビのほうに戻ってくればいいと。でも、映画で結構売れちゃってというか、いろいろ賞とかたくさんもらったので、そうするとテレビのほうに戻れなくなるというのはありますよね。
合唱という競技に惹かれて生まれた『独立少年合唱団』
――『独立少年合唱団』なんですけれども、タイトルからして合唱団の話かなと思って見ていると、学生運動とか社会のムーブメントの話だったと最後に感じます。先ほどの話を聞いて腑に落ちました。吃音の少年という設定も、子どもを描くためにというよりも、当時の若者を描くためだったのかなと。後半で吃音でも人の言葉だったらどもらずに話せるという話になってくる。歌だとどもらないのは、歌詞が決まっているから。自分の考えではなく人の考えならば雄弁という設定は、学生運動と重なっているんじゃないかなと思ったんですけど。
緒方 ああ、なるほどね。その辺は青木さんなんですけれども。吃音とか合唱は最後に決まったんですよね。70年代の少年たちを全寮制の中で描こうというのはわりと早く決まったんですけど、じゃあ、この人たちは何をしているんだというのが分からなくて。新聞部かなとかね。8ミリとか撮ってるのはまだその頃はあんまりいなかったよなとか。いろいろやっているうちに、たまたま青木さんが大阪の淀川工業高校という合唱が強いところがあるんですけど、そこのドキュメントを見て、「これだ」と。合唱というものが70年代を象徴している。もともとコーラスというのは左翼的な活動にも使われてましたし、みんな同じ方向を向いていて、すごく不自由感がある競技なんですね。僕が見た全国で何位に入るような強豪校は、本当にスパルタです。ビックリしますよね。今、たぶんああいうことはできないんじゃないかな。そういう、時代に対して逆行しているようなことをやっているなというのがあって。吃音というのは、青木がたどり着いたことなんです。あれが大きいですよね。吃音の子も歌は歌えるんです。
――やっぱりそういうものなんですか。
緒方 そうなんです。
