映画監督の役割とは?

緒方 この前、新作を撮って、単身赴任で京都で1人ウィークリーマンションにいて、大体僕は撮影は早いので、夕方5時には自分の部屋にいるんですけど、翌日のコンテの予習みたいなことをやるじゃないですか。監督ならみんなやると思うんですけど。その時に、「俺は何を撮るんだろう」みたいなことを考えるのが面白くて。分かっていることを撮ることはつまらないんじゃないかとか、いろいろ考えたりするんです。「どう撮るか」じゃなくて「なにを撮るか」なんですけどね。監督が分かって撮ってしまうと、一番映画はつまらなくなるだろうな、みたいなことを思うんですよね。「これは分からん。分からんまま現場へ行こう」といって。

――あまり予習しすぎて全部分かっちゃうよりいい?

緒方 解答を出すということがつまらないということで。京都は面白いところで、例えばセットが9時開始だとすると、9時に来る人なんか誰もいなくて、8時ぐらいにみんな来ちゃうから、8時過ぎにセットに入ったらみんな仕事をしているんですよね。それで、「ちょっと今日撮るところ難しいんだけど、よく分からないんだよ。ちょっと一回助監督さん集合」とか言って、「ちょっと動いてみて。それ言ってみて」って、「ああ、そういうことか。じゃあこっちから撮るのかな」とかなんか言ったら、みんな集まってくるんですよね。そうこうするうちに、俳優もみんなやってくるんです。佐々木蔵之介とかみんな。で、「やります、やります」とかいって。で、リハーサルが始まっちゃうんです。みんないろいろ考え始めるんですよ。そうしたらこっちのものですよね。9時開始で、9時5分ぐらいには「ちょっと一回、回してみます? これ」みたいなことになっていって。それは面白かったですね。

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――監督の頭の中だけで考えるよりも、現場でみんなとやりながら、共同作業として作るほうが面白い。

緒方 それが映画のダイナミズムなんでしょうね。つまり、そこで大事なことは、スタッフ、キャストが、監督が何を分からないと言っているのかが分かることなんです。これが大事なことだと思うんですよ。

――大事ですね。

緒方 すっごい大事。監督が分からないことを表明させるのも大事なんですけど、じゃあ何が分からないのかということを、「それは監督、こういうことですかね」「いやいや、そこじゃないんだよ」って。

――みんな方向性が違うことを言いだしたらまとまらないですもんね。

緒方 そうそう。だから、それは勘違いしてほしくないんだけど、俺がやりたいことを探ってるんじゃないからなと。映画さまの言うことを探っているんだからねと。映画として何が一番伝わりやすいのか、何を伝えるべきなのかということを探っているんだよ、みたいな。みんなそうすると、俳優は俳優で、佐々木蔵之介なんか「これ、奥でこの芝居をやればいいんじゃないですかね」みたいなことを。「なるほど。一回それでやってみようか」みたいなね。

――映画が求めている正解というのは、台本なりがあって、このシーンに求められているものとかを理解するということですか?

緒方 いや、もっと崇高なものですよ。これはインタビューで言うと変な人と思われるけど、「映画さま」というのがこの辺(頭の上を指す)にあるような気がしているんです。それに沿ってやっているだけであって。世の中に何百万本という映画があって、その決まりごとがあるんですよ。それを僕らは提示しているだけであって。

©藍河兼一

注釈
仙頭武則 プロデューサー。代表作:『Helpless』『リング』『五条霊戦記 GOJOE』『接吻』など。

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