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「おかわり」を巡ってひと悶着
「これはあかんな」と諦めた商人、引き上げるあいさつをしたところ、今度はおかみさんがしくじってしまった。つい、いつもの癖で、「えらいすんまへんなあ。あの何にもおへんけどちょっとお茶漬けでも」といってしまう。
商人にしてみれば、まさにこの一言を待ってました! なのである。
「さよか、えらいすんまへんなあ」と遠慮なしに居座る。おかみさんはしまったと思ってもすべてはあとの祭り。台所へ行ったものの、ご飯はほとんど残っていない。
そこで、あるかぎりのご飯をかき集めて茶碗に盛り、漬物をそえて商人の前へさし出した。あまりに少ないご飯を商人はすぐに食べてしまい、「おかわりを」といいたいものの、おかみさんは知らん顔で後ろを向いたまま。むろん、彼女はそのことに気づいているのだが、ないものはないので、無視を決め込むしかない。
で、商人はこっちを向かそうと、「このお茶碗は清水焼でっしゃろ。いい茶碗でんなあ。土産に5つほど買うて帰りたい。この茶碗はどこでお求めになりました」と空の茶碗をおかみさんの目の前へ突き出した。
するとおかみさんも負けていない。「これといっしょにそこの荒物屋で買うたん」と、からっぽのおひつを突き出したというのがオチだ。