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おもしろいことに、自分の本来の衝動が発揮できない状況では、引きこもってしまうゴリラもいるそうです。しかしゴリラは、落ち込んだとしても、今の自分と過去の自分を比べて、「不幸になった」と悲観することはありません。山極氏は、「ゴリラにも記憶があります。ですが言語を持たないため、過去の記憶を再現できません」と述べています。
「以前、フランシーヌ・パターソンという発達心理学者が、マイケルという雄ゴリラに手話を教える実験をしたことがあります。マイケルは見事に手話を覚えたそうです。パターソン氏が試しに、アフリカにいたころの状況を聞くと『お母さんが首を切られて殺されてしまった』と手話で表現したというのです」(『OUTWARD』No.84より引用)
ゴリラにも過去の記憶は残る。けれど、言葉を持たないから想起することがないため、過去をあまり振り向かない。ゴリラは、今を生きています。
「自然の中に身を置くこと」で感じること
一方、人間は、過去を確認して落ち込んだり、喜んだりします。
人間も本来、オランウータンやゴリラと同じで、余計な心配や詮索、推測、憶測をせず、今を一所懸命に生きる力を持っていたはずです。ですが、想像力と言語化能力に依存しすぎた結果、その力が薄れているのではないでしょうか。
「自然の中に身を置くこと」で、本来身につけていたはずの「今を生きる力」を呼び戻すことができるように思います。私は山に登るたび、森に入るたび、川を下るたび、そんな瞬間を感じることがあります。

