暑い日に、暖房をつけてしまった高齢者

 ある暑い夏の日、一人暮らしの高齢者が室内で倒れているのを大家さんが発見しました。すでに死亡しており、皮膚などが高度に乾燥してミイラのような状態でした。「高温環境下で熱中症に陥った」と推測されましたが、奇異な点として、暑い日が続いていたにもかかわらず部屋の窓は締め切られ、外気よりも室内の温度が高く、まるでサウナのような状態だったのです。

 エアコンがついたままだったので、リモコンを確認しました。すると、冷房ではなく、なんと暖房に設定されていたのです。エアコンから吹き出した熱風がご遺体に直接当たり続けたため、死後にミイラ化したのだと考えられました。

 亡くなった高齢者は、日常生活は一通りこなせるものの、目と足が悪く、常にメガネと杖を使っていました。解剖しても、死因となるような明らかな病気や外傷が確認できなかったため、死因を「熱中症(推定)」と判断しました。

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※写真はイメージ ©moonmoon/イメージマート

 エアコンのリモコンには、電池容量が少なくなると液晶表示が薄くなっていくものがあります。この方の部屋にあったリモコンの表示も、文字が薄くなっていたことが確認されました。こうした現場の状況から、亡くなった人は「窓を閉めて冷房をつけたつもりだったのに、視力の低下した目で表示の薄くなったリモコンを操作したため、誤って暖房をつけてしまった」と推測できたのです。

 高齢で感覚も鈍くなっていたでしょうから、エアコンから熱風が吹き出しても、また室内の温度が高くなっても、しばらくは気づかなかったのでしょう。

 歳を重ねると、自分の感じた温度と、実際の温度が異なることがあります。判断を誤ると死の危険性が高まるので、感覚だけに頼らず、見えるところに温度計を置いておくなど、客観的な指標に頼ることをおすすめします。

・自分の感覚を過信しない。

・室内に温度計や湿度計を設置して、確認するのを習慣化する。

・エアコンなど家電の定期的なメンテナンスを怠らない。

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