覚醒剤中毒の女性は、母親だった

 一目見て覚醒剤中毒だとわかった。女性は通り過ぎようとしたが、ふと未知の前で立ち止まった。顔を覗き込んで来たかと思うと、呂律の回らない声で言った。

「あんたさー、さっきダチに『ミチ』って呼ばれてたよなー」

「だったら、なんだよ」と未知は答えた。

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「もしかして、あんたの親父って住吉会の敏夫?」

 稲川会のマンションで、住吉会の名を出されたので血の気が引いた。未知は言った。

「あんた誰なんだよ」

「うちが先に訊いたんだから、まずそっちから答えるのが筋だろ!」

「答えてやるよ。敏夫は私の親父だよ。それが何だ」

 女性はニヤリと笑った。

「そっか。敏夫、元気か?」

「知るか。もうあの家は出たんだ。大体、あんた誰よ」

「うち? あんたの母親だよ」

「は?」

「あんたの母親だっつってんだろ! 紹子つうの。敏夫から何も聞いてねえの?」