「犬か猫を殺すつもりでやるのよ」ウメ殺しの犯行を自供
さらにウメの遺体発見を聞かされたカウが「ようやく観念したのか、(22日)正午すぎごろから『死刑だけは堪忍してください』と前置きして犯行を自供し始めた」との記述も見える。そして翌2月24日付下野は、事件の性格を決定づける「犬猫殺すつもりで… 尻込みする大貫けしかく(けしかける) 夫婦殺しの本格的通り調べ始める」が見出しの記事を掲載する。主要部分を見る。
事件の主謀者・小林カウは宇都宮署特捜班の調べ室で青木刑事部長に「あなたの身代わりに、ワシが生方さん夫婦の遺体に焼香してきてあげたよ」と肩をたたかれて初めて、せきを切ったように泣き崩れ、神山警部の追及にウメさん殺しの犯行を初めてはっきり自供した。
カウらのこれまでの調べを総合すると、昨年1月中旬ごろ、大貫はカウに「家に来てくれ」と言われ、行ったところ、カウと鎌輔が待っていて、「ウメを殺してくれ」と頼まれた。大貫は最初は冗談だと思って断ったが、あまり真剣なので、5万円の報酬で引き受けた。鎌輔は「俺のいないところで殺せよ」と言い、内金として2万円を手渡した。大貫は気が進まなかったので、その足でその金で酒を飲んでしまい、その日の夕方、カウの家に息せき切って駆け込み、「殺してきた」と(うその)報告。焼酎で“祝杯”をあげた。間もなく、鎌輔が帰宅したところ、ウメさんが元気な姿で「お帰りなさい」と出迎えたのでびっくり。後でカウに「あの時は化け物かと思った」と語った。カウも「その日の夜、日本閣に電話したらウメさんが出たので、腰が抜けるほど驚いた」と供述している。
その後、大貫はカウらに「いったん引き受けたら、男らしくやれ。人間と思わず、犬か猫を殺すつもりでやるのよ」と“励まされ”、2月6日夜、階下六畳間に寝ていたウメさんを15分ぐらいかかって手で絞め殺した。カウは廊下にいて「助けて―」という悲鳴を聞いていた。カウは町内に隠れていた鎌輔に電話で、前もって決めていた合言葉で「売れた」と伝えた。ウメさんの遺体は最初ボイラー下に埋めたが、世間が騒がしくなったので1カ月後、大貫とカウが埋め直した。この時も鎌輔は帳場にいた。
カウはウメさん殺しを大貫に依頼した時、「いずれは鎌輔も殺して、おまえと2人で旅館を経営しよう」と言っており、当初から計画していた。大みそか、テレビを見ていた鎌輔の後ろからカウが縄を首に掛けて引き倒し、大貫が馬乗りになって右耳の下に出刃包丁を突き立ててえぐり、とどめを刺した。遺体は一晩隣の部屋に転がしておいて、翌朝新館大広間に運んだ。その後、300万円の火災保険に加入。日本閣に放火しようと考えたが、割に合わないと思い直してやめた。カウは「本当に好きな男はいない。利用したまで」と述べている。
一方、大貫は昨年12月25日のクリスマスにウメさんを埋めた場所を訪れ、「気がとがめるので、墓標代わりにモミの木を置いてきた」と言っている。取り調べの際も、震えて声も出ないので、係官が火箸を持たせてやると両手でしっかり握り締め、ようやくポツリポツリと話しだしたという。大貫にはまだちょっぴり人間らしいところがあるようだ。
この記事も最後に「カウの夫は十数年前、脳出血で死んだという」と書いている。しかし、事件は新たな展開を見せる。下野の3月2日付の記事に書かれていたのは――。