人は生まれ育った環境に影響を受ける。時には、ハラスメントや虐待の被害者になった経験から、今度は自分が加害者になってしまうこともある――。
ノンフィクションライターの旦木瑞穂さんは、そうした「トラウマの連鎖」に関心を持ち、「トラウマの連鎖を止める術」について多くの元被害者や元加害者にインタビューを続けてきた。
そんな旦木さんが、現在カウンセラーとして夫婦関係の再構築をサポートしている碧子さん(36)に、夫から離婚を切り出されるも拒絶し続けた過去の体験や、幼かった碧子さんに理不尽に接してきた父との関係について話を聞いた。
夫から離婚を切り出されたのはなぜだったのか。「どうしても離婚はしたくない」その思いの奥に、一体どんな感情があったのか――。(全3回の1回目/続きを読む)
「あなたを愛しているかわからない。それでも離婚はしない」
現在九州在住の碧子さんは、27歳で結婚し、2015年に関東で新婚生活をスタートした。
しかし結婚当初からセックスレスに。3年後に夫のキャバクラ通いが発覚し、大喧嘩の末に夫が出て行った。
だが約10ヶ月の別居後、2019年7月に再同居となる。
再同居後、しばらくは良かったが、徐々に小さな喧嘩を繰り返し始め、2020年9月、夫から再び離婚を切り出される。
何とか持ち直すも、2021年1月、夫の様子がおかしい。
よそよそしい対応を続ける夫に、苛立った碧子さんは感情を爆発させてしまった。
「私、何も悪いことしてないのに、何でこんなに塩対応されなきゃいけないの?」
すると夫は申し訳なさそうに言った。
「今すぐ離婚したいとかじゃない。ただ、このまま夫婦生活を続けるのに違和感があった。こういう話をしようとするとすぐに離婚の話になるし、もめるのが嫌だから黙ることしかできなかった。俺は、たまには俺の気持ちを聞いて欲しいだけなんだ!」
しかし碧子さんは収まらず、怒り心頭に達する。
「気持ちって、ここまできて離婚なんてマジあり得ないから! こんなところでつまずいてどうすんだよ? さっさと心決めて夫婦として再起動するんだよ!」
すっかり戦闘態勢の碧子さんに対し、夫は冷静に努めていた。
「離婚するもしないも抜きにして、俺はただ今後のことを、2人できちんと話をしていけるようになりたいんだよ」