昭和初期にはサラブレッドの育成も手がけており、イギリスから輸入した種牡馬・トウルヌソルは初代ダービー馬のワカタカなど、またダイオライトは三冠馬セントライトなどを輩出した。いわば日本の近代競馬の原点の地。いまも、成田空港周辺には競走馬関連の牧場が点在している。
そんな御料牧場も、終戦直後に敷地の一部を払い下げ。焼け出されたり外地から引き揚げてきた人々がこの一帯に開拓民として入植したという。
そうした土地に空港ができることが決まったのが1960年代後半。戦後、新天地として見知らぬこの地にやってきて荒れ地を耕し、生活をつないできた人々にとっては、わずか20年で命の土地が取りあげられる。これが長きにわたる三里塚闘争、成田闘争のきっかけになった。
こうした歴史を伝える「空と大地の歴史館」が、航空科学博物館の隣に建っている。芝山千代田駅周辺に見られる空港と里山のせめぎ合い。それはこの地域の歴史そのものでもあるのだ。
芝山鉄道線内で気をつけたい“あること”
ともあれ、芝山千代田駅である。この駅が開業したのは空港開港から四半世紀ほど経った2002年。2019年には駅のすぐ近くに「空の湯」という温泉施設ができた。さらに東側では新滑走路の建設も決まっている。空港と里山のせめぎ合いは、これからもまだまだ続きそうだ。
芝山千代田駅にやってきて折り返す電車は、通勤時間帯を除くと1時間に1本ほど。そのすべてが芝山鉄道線から京成線に直通し、京成成田駅までを結んでいる(通勤時間帯には京成上野方面に直通する電車もある)。
だから、わざわざ東成田駅の殺風景な通路を歩かなくてもいいのだ。京成成田駅を使って帰ろうと思う。なお、芝山鉄道線内は交通系ICカードが使えない。東成田~芝山千代田間は220円。久しぶりに、券売機できっぷを買いました。
写真=鼠入昌史
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