――そうですか。黒沢さんはあの作品では、自分の8ミリ作品のカットを再現したり、自主映画でやっていた方法論で作っています。日活ロマンポルノとして評価されなかったのが、かえってよかったのかなと思いました。

蓮實 そうかもしれませんね。

――黒沢さんにとっては、そこで一つの転換点だったみたいですけれども。

ADVERTISEMENT

蓮實 要するに、日活からは拒否(注5)されたわけだから、その意味では商業的に失敗したわけです。ただし、その失敗をむしろ貴重な糧として飛躍し、同じことを繰り返すのではなくて、もっと大胆なことをやり始めた。東映ビデオでしたっけ。

――大映のオリジナルビデオですね。

蓮實 そうそう。そういうところから今の黒沢さんが出てきたということは、本当にすごいことだという気がしています。哀川翔、前田耕陽、大杉漣の三人組にときおり洞口依子などが絡んだりする『勝手にしやがれ‼』シリーズなど、本当に面白かった。男たちが狭い部屋の中で何やらごたごたしているかと思うと、いきなり彼らのいる場所を俯瞰する戸外の超ロング・ショットが挿入されたりして、思わず、やったと歓声をあげたりしたものです。それから、一昨年にフランスでリメークされた『蛇の道』など、至極面白かった。しかし、それらを現実に見るのには、本当に苦労しました。(注6)

注釈
1)『変態家族 兄貴の嫁さん』1984 新東宝 監督:周防正行 出演:風かおる 大杉漣
2)『地球に落ちて来たくま』1982 8ミリ 60分 監督:小中和哉 出演:津畑富貴子
3)『いつでも夢を』1980 8ミリ 3分 監督:小中和哉 出演:大村卓也 川上裕子
4)『ドレミファ娘の血は騒ぐ』1985 監督:黒沢清 出演:伊丹十三 洞口依子
5)日活からは拒否 『ドレミファ娘の血は騒ぐ』は『女子大生恥ずかしゼミナール』というタイトルの日活ロマンポルノとして製作されたが、日活が納品拒否。ディレクターズ・カンパニーが買い取って追撮、再編集して一般映画として公開された。
6)当時製作された大映の黒沢清監督作品は実質的にはオリジナルビデオであったが、「劇場公開作品」として売るために限定された劇場で短期間公開された。

次の記事に続く 「1970年代の終わりから80年代の初めにかけての立教大学における映画活動は、映画史的な事件だといえるかも知れません」【蓮實重彦氏インタビュー】