「勤務態度はいたって真面目。そんなことをする人だと思わなかった」――。
こう語るのは、ある居酒屋経営者だ。飲食店で従業員が経営者の目を盗み、店の金を横領する事件が想像以上に多くの店で起きている。その目的はギャンブルやキャバクラだというから呆れてしまう。
筆者は外食ジャーナリストとして多くの飲食店経営者と関わるが、こうした従業員による横領の話は後を絶たない。今回はその中から「本当にあった話」として、ワンオペを悪用したものや、本来は縁起物であるはずの「熊手」を隠れ蓑にしたケースを紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
1000円程度からスタートし、数万円単位にエスカレート
飲食店で発生している横領の最もオーソドックスな手口が、レジから現金を抜き取るもの。店長のような現場の管理者が、レジデータの取り消し機能などを駆使して経営者や本部に対して1日の売上額を実際より低く報告し、その差額を懐に入れるというものだ。
多くは1000円や2000円といったバレにくい少額からスタートし、だんだんと盗むことに慣れてくると1万円、3万円……と金額が大きくなる。やがて大胆な金額を抜き取るようになると、経営者が違和感を持ち始めて発覚につながるケースが多い。店内は多くのお客で盛況なのに、報告で上がってくる売り上げの数字が妙に低く、経営者の体感と数字が一致しないことで「おかしい」と発覚するのだ。
経営者が現場の店長に金銭の管理を丸投げしたことで、会社の金を持ち逃げされたという話も聞く。
