やなせたかしの考えは、スーパーマン的なマッチョイズムではなく、叙情やメルヘンこそが人間の根っこの中にあるというものです。アンパンマンで明確な悪が登場しないのもそうした思いからでしょう。赤ちゃんや幼児に受け入れられるのは、やなせたかしの抒情とメルヘンのやさしさがもとになっているからではないでしょうか。
アンパンマンの次に人気のあるキャラクター
最後に、アンパンマンのビジネス面について触れます。
アニメは1988年10月から放送を開始しています。なぜこれほどまでに長寿アニメとなったのか。
それは、やなせたかしの作り上げたアンパンマンの世界観がまったくぶれていないことにあります。
やなせたかしは、アンパンマンが初めてアニメ化される際、最初は「原作は提供するが、アニメ制作の現場には一切タッチしない」と言ったものの、亡くなる直前まで積極的に関わっていたそうです。アニメのチームに最初にやなせたかしが伝えたのは、「上品に作ってください」。作品から下品な要素を一切排除しました。
アニメの制作チームは、アンパンマンがどのような存在か、正確に認識していると思います。ポイントは大きく3つ。
まずアンパンマンは専守防衛で、自分からは戦わない。ばいきんまんとドキンちゃんはライバルだけど、悪役じゃない。そして、映画で登場する巨大な敵は、悪というよりは天変地異や戦争的なものの象徴することです。
「それいけ!アンパンマン」で描かれる世界は、われわれが住む世界ではないと明示するため、作中に人間は1人も出てきません。ジャムおじさんとバタコさんは「人間の形をしているけど妖精です」とやなせたかしが明言しています。子供たちが自分たちと置き換えやすい、カバおくんをはじめとした街の子供や住人は、すべて動物として描かれています。
映画版と通常回の決定的違い
「それいけ!アンパンマン」で一番人気はアンパンマンですが、次に人気があるのは、ドキンちゃんやばいきんまんです。それは彼らがもっともに人間的だからでしょう。実際、彼らは作品の中で、唯一人間的な欲望を持っています。