やなせたかしは生前幾度も「ドキンちゃんは僕も大好き」と話しています。妻の暢がモデルとも言われています。

視聴者である子供たちも欲望は持っているので、ドキンちゃんやばいきんまんに自己投影しやすいのです。同じように善と悪の心を持ち、時に闇落ちするロールパンナちゃんも実に人間的なので、人気のあるキャラクターとなっています。

ところで、アンパンマンの映画版をご覧になったことはあるでしょうか。もし未見であればぜひ、映画だけに登場するゲストキャラクターに注目してみてください。そのゲストキャラクターは、時にはばいきんまんさえも味方につけ、困難を克服していく姿が描かれるのがお決まりです。映画では、そのキャラクター“のみ”が苦難を乗り越え、精神的に成長する物語になっています。

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通常のアニメ回では、登場人物が物語を通じて成長することはありません。映画の方は、ゲスト主人公が未熟な状態から挫折を経て成長する物語になっています。意図的に行っていると私は考えます。

やなせたかしとアンパンマンの制作チームの狙いは、映画を見た子供たちに精神的な成長を促し、いずれアンパンマンの世界から卒業できるようにすることなのでしょう。だから通常のアニメ回を徹底的にマンネリにループする構造で作っている。映画は一方で、子供たちに成長と卒業を促している。

だから毎年1500億円を生み出せる

これは、ハリウッドのスーパーヒーローものと真逆の手法です。

ずっと同じキャラクターを使いまわす点では同じでも、キャラクターがどんどん変化していく。

例えばスーパーマンは、同じキャラクターを使いまわしながら、彼の内面にどんどん切り込んでいく。1978年のクリストファー・リーヴ主演のスーパーマンは、わりと能天気で明るいキャラクターでしたが、2013年のヘンリー・カーヴィル演じる『マン・オブ・スティール』では、生き方に苦悩する弱いヒーローとなっています。

同じことはバットマンにも言えます。1960年代のテレビシリーズではアメコミそのままの勧善懲悪のヒーロー像だったのが、1980年代から90年代のティム・バートン版ではエキセントリックで内省的なキャラクターになり、クリストファー・ノーラン原作・監督の『ダークナイト』シリーズでは、不公平な社会、正義への懐疑など、どんどん陰鬱なテーマになっています。