なぜ幼児は「アンパンマン」が大好きなのか。『アンパンマンと日本人』(新潮新書)を書いた東京科学大学の柳瀬博一教授は「作者のやなせたかしさんは、同時代の男性では珍しいフェミニンな感性を持ち、マッチョイズムに対し懐疑的な人だった。それゆえ、アンパンマンは子供に愛されるキャラクターになった」という――。(第3回)(インタビュー、構成=ライター市岡ひかり)
なぜアンパンマンは子供から絶大な人気を誇るのか
NHKで連続テレビ小説「あんぱん」は、アンパンマンの生みの親である、やなせたかしとその妻・暢がモデルとあって、今改めてアンパンマンに注目が集まっています。
0歳~4歳の子供に圧倒的な人気を誇ります。米TitleMax社によると、アンパンマンの市場規模は、世界第6位となっています(2018年までの世界のキャラクタービジネスの規模累計)。日本の乳幼児が主なターゲットにもかかわらずです。その市場規模は年間1500億円(2019年の1ドル=109円で換算)、テレビアニメ化されてから30年で6.6兆円を稼ぎ出したことになります。
かくいう私の娘も3歳半になるまで、好きなキャラクターの1番は断トツでアンパンマンでした。
ある時、予防接種から帰ってきた娘の腕に、手書きのアンパンマンのパッチが貼ってあるのに気づいたんです。そこでアンパンマンが、子供を泣きやませるための「優秀なベビーシッター」として活躍していると知りました。3歳半でプリキュアに移行してアンパンマンを卒業するまで、相当お金をつぎ込んだと思います。
なぜアンパンマンがこれほど親子から絶大な人気を誇るのでしょうか。私はその成り立ちにヒントがあると考えています。
子供を「子供扱い」しない
やなせたかしが「これがなければアンパンマンは生まれなかった」と語る作品があります。1968年に発表された初期の代表作「やさしいライオン」です。
この作品ではやなせたかしの大きな特徴である、子供向けと大人向けを区別して描き分けない姿勢が見受けられます。