「やさしいライオン」は、母を失ったみなしごライオン・ブルブルと、子供に先立たれた母犬のムクムクの交流の物語です。初出は大人向けの童話短編集「アゴヒゲの好きな魔女」(山梨シルクセンター出版部)で、後に子供向けに絵本化されますが、文章はほとんど同じものが使われています。
この物語では、大人になったブルブルが、育ての親・ムクムクに会いに行こうとサーカスの檻を破り、警官隊に撃たれてしまう、という残酷にも思える展開を迎えます。その結末に対し、やなせたかしは「人生の悲痛については眼をそむけるべきではない」と子供向け絵本にする際にも変更を加えませんでした。
この「子供に手加減しない」「客を選ばない」という表現手法は、アンパンマンへと引き継がれています。
苦悩するアンパンマン
アンパンマンが初めて登場したのは、「月刊誌PHP」1969年10月号に掲載されたメルヘン「アンパンマン」です。この時のアンパンマンは、スーパーマンみたいな格好した中年のおじさんでちょっとメタボ。顔はアンパンでできていません。代わりにほんとのアンパンを持っていて、お腹が減った人にあげるキャラクターでした。
ドラマ「あんぱん」の初回冒頭でも、この中年アンパンマンが飛んでいるシーンが登場しました。
その後、1973年に月刊絵本「キンダーおはなしえほん」10月号(フレーベル館)に『あんぱんまん』が掲載されました。子供向けに描かれた最初の「アンパンマン」です。その姿は今のアンパンマンに近いですが、手はまんまるではなく指があり、衣装は汚れています。そしてこのとき初めて、おなかをすかせた人に自分の顔を分け与える、というキャタクター設定も登場します。
ユニークな設定でしたが、しかし、当時は「顔を食べさせるなんて残酷だ」と評判は散々だったようです。
1973年、やなせたかしは雑誌『詩とメルヘン』(サンリオ)を立ち上げ、その中で「熱血メルヘン!怪傑アンパンマン」という連載を始めます。