さくら水産はいかにして安売りと決別することに成功したのだろうか。

アルバイトだけの店舗も

今でこそ見かけることはほとんどなくなったが、かつては街中に「250円均一」「270円均一」と書かれた居酒屋の看板が溢れていた。先鞭をつけたのは大手居酒屋チェーンだったが、後を追ってさくら水産もその低価格市場に身を投じた。

「創業者(寺田謙二氏)は高くても380円までというコンセプトを掲げていました」と佐々木氏は話す。この戦略は消費者から歓迎され、昼・夜を問わず、さくら水産の店舗は客でごった返していた。

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ただし、ライバル店も安さを前面に出していたため、ますます価格競争は激化。どこもが泥沼にはまっていった。当時の状況を佐々木氏はこう吐露する。

「出店を急ぎすぎて、教育が追いついていませんでした。店長不在の店もかなりあったし、アルバイトだけで営業している店も少なくなった。とにかく店舗のマネジメントが弱かったです」

そうなると何が起きるか。飲食店での基本であるQSC(クオリティ、サービス、クリーンリネス)の低下が如実に表れていった。しかし、それでも出店攻勢は止まらない。

「出店すれば売り上げが伸びるからですよ。ただ、これは主観ですが、出店する地域を真剣に選んでないなと感じていました。150店舗を過ぎたあたりからは、2年も持たない新店が続出しました。売り上げが下がってくると今度は人件費にメスが入る。創業者が人件費を減らせと叫び、コストをいかにかけないかを重視するようになりました」(佐々木氏)

現場は大混乱に陥った。

商品やサービスの質に目を向ける余裕がないどころか、議論すらほとんど起きなかったという。例えば、食器類も落としても割れない白のプラスチック皿などを使っていた。

「とにかくお客さんはガーっと押し寄せてくるので、流れ作業のように働いていました」(佐々木氏)

そうした状況でスタッフのモチベーションを上げるというのも無理があるだろう。