「1軍に来て、打撃フォームで悩んでいるような選手は1軍じゃいられない。だから、打撃指導はいらないんです」
そう語るのは、福岡ソフトバンクホークス監督の小久保裕紀。現役時には類まれな打棒で腕を鳴らした選手が、打撃指導を不要と語る本心とは。
スポーツライターの喜瀬雅則氏による『ソフトバンクホークス 4軍制プロジェクトの正体 新世代の育成法と組織づくり』(光文社新書)の一部を抜粋し、紹介する。(全4回の3回目/続きを読む)
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打撃コーチが打撃指導をしない新システム
最新鋭の打撃マシン「トラジェクトアーク」は、マウンド上に設置されたスクリーンに、等身大の相手投手の映像が映し出される。球速、球種、回転数、リリースの角度といった投球に関するデータと投手の特徴をマシンに入力すれば、それが“完コピ”されて再現される。つまり、バーチャルでの対戦が可能になるのだ。
ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平も、これで試合前、さらには試合中にも打ち込んでいるという。この最新機器がまず、2024年6月から筑後のファーム施設に導入されていた。
アイピッチでの打撃検定で16段階を完全クリアしたことが評価され、育成から支配下に昇格した捕手の石塚綜一郎は、この「トラジェクトアーク」で対戦相手を想定して打ち込んでから、そのまま1軍に合流。筑後に戻ってきた時、R&Dのスタッフに「この機械の方が、本人よりすごかったです」と大真面目に振り返ったというエピソードも残っている。
2025年からは、1軍の本拠地・みずほPayPayドーム福岡にも設置された。
打者は練習中にフォーム、スイングスピード、打球方向、打球速度といったあらゆるデータを集積することができる。それらの“取れたての情報”を、過去のデータや自分の感覚と照らし合わせれば、現在の調子が分かるわけだ。悪いポイントがあれば、そこにフォーカスし、データや動作解析に基づいて調整すればいい。
それを読み解き、自分で自分に修正をかけられるレベルにあるのが1軍の選手なのだ。
これを小久保は「コーチング」と「ティーチング」の違いで説明する。

