表現方法についても、メッセージをストレートに伝えればいいというわけでは必ずしもないとの考えを持つ。田中と一緒にいちばん好きなサザンオールスターズの曲として「ミス・ブランニュー・デイ」を挙げた際には、同曲が深夜のテレビ番組で騒いでいた女子大生たちを皮肉った曲にもかかわらず、《批判じゃなく、あれだけの名曲にしてみせちゃうのがすごくカッコいい》、《ああいうのって普通できない。あまりにも単純なメッセージが見えちゃったりすると、カッコ悪くなっちゃうんですよね。最終的な落としどころが、主張じゃなくて音楽に向かっているからいいんじゃないでしょうか。僕らがお笑いを始めたときも、そういったスタンスを目指しましたよね。まあ、なかなかできないんですけど》と語っていた(『週刊現代』2002年9月7日号)。
「表現を人に届けるかたちにすることが芸だろう」
太田自身は日頃、ストレートな芸をやっている分、よけいにサザンのようなスタンスに憧れるのだろう。それゆえ、やはり好きだった忌野清志郎の率いるバンド・RCサクセションがアルバム『COVERS』で反原子力発電のメッセージを歌ったときには疑問を覚えたという。
なぜ清志郎は、こうした直接的な表現の方向に振れていったのか? 太田はこの疑問に、清志郎の死後、東日本大震災での福島第一原子力発電所の事故もあって『COVERS』が再注目されるなか、関係者たちに話を聞いてまわったテレビ番組(2014年)で改めて向き合った。
その上で彼は、清志郎の伝えたかったことやそのバックボーンを理解してもなお、『COVERS』が当人の本意ではないところで騒がれ、《しかも、一度は発売中止にまで追い込まれて、放送もできなくなって、それで何をどうやって伝えるの? ってところなんですよ。メッセージはわかる。でもその表現を放送できるかたちに、人に届けるかたちにすることが芸だろうってやっぱり思うんですよ》と正直に吐露している(NHK「ラストデイズ」取材班『ラストデイズ 忌野清志郎 太田光と巡るCOVERSの日々』パルコ出版、2015年)。尊敬する相手に、あえてそう問わずにいられないのが太田光という芸人なのだろう。
その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

