指導員が選んだ題目の中には日本軍に足を撃たれ、山小屋で一人治療していた遊撃隊員が、患部が悪化して腐りかけると、ブリキ缶でのこぎりを作り、自ら革命歌を歌いながら足を切り落とすという話や、日本軍に逮捕されて拷問を受けている隊員が監獄で寝ている間に組織の秘密を寝言で漏らすことを恐れ、自ら頭と顎を押さえつけて舌をかみ切るといった、背筋の凍るような話があった。
「負い目」と「感化」
映画も劣らず衝撃的だった。私や祐木子が拉致されて最初に見せられたのは、『世界に燃え広がる火』という、金日成の叔父、金亨権(キム・ヒョングォン)が抗日闘争の地下工作中に日本の警察に逮捕され、拷問にも屈せず、獄死するまで戦う内容の映画だった。
劇中、無数の五寸釘を逆さに打ち込んだ床の上を主人公が素足で歩かされる拷問シーンと、若い軍服姿の金日成が、創建された抗日遊撃隊や人民の前で手を振りながら歩くクライマックスシーンがあり、「悪」と「善」の強烈なコントラストをつくりだしていた。
こういった日本を「悪」とするコンテンツは、最初は日本人に恨みをもつ国に連れてこられたことへの恐怖を募らせるものだったが、その後は次第に日本人としての「負い目」に変わっていった。
もう一つの方向性は、北朝鮮とその指導者を称賛している日本人の存在を通して「感化」することだった。日本には北朝鮮のことを研究している著名な学者や政治家が多くおり、北朝鮮の革命思想、主体思想を広め、実践する活動を盛んに行なっていると、よく指導員に聞かされた。
招待所の本棚にも、日本人が金日成や主体思想を称賛して書いた日本語版の図書が何冊も置かれていて、自習課題として学習させられた。映画館で見るドキュメンタリー映画にも金日成との接見に感極まっている日本人の姿がたびたび登場した。祐木子は、映画に日本の主体思想研究会のメンバーが登場したとき、通訳をしていたチェ・スンチョルに「将来、このような人になってほしい」と言われたという。
これらの「学習」は、北朝鮮の支持者・信奉者になることが、「良心」や「良識」に基づいた、いたって自然な過程であることを意識づけさせるものだったと思われる。