鶴本 そうです。専用の鞭が家に隠されていて、たとえば奥さんが子牛を放牧して1頭でも見失ったりしたら、叩かれていたらしいです。でも、今はそういうこともなくなってきていると聞きました。
とはいえ、基本的に男女別行動で、性別役割分担がハッキリしていることに変わりはなくて、男は外に出て放牧したり、家畜の世話をして、女の人は家事育児といった家のことをすべて担わないといけないんです。
マサイ族の掟や文化が分からなくて、当初はわーっと100個以上、彼に質問をぶつけていました。でも、そうすると彼も疲れちゃうし、結局、「これがマサイだから」がすべての理由なんですよね。
――ジェームスさん自身はマサイの伝統を守ってきただけで。
鶴本 現代でもマサイ族が世界的に有名な部族として残り続けている点は本当に尊敬するし、それこそが、マサイがマサイたるゆえんなんだと理解はできても、心がついていかない部分はありました。
配偶者ビザが下りず、日本に一時帰国
――話は変わりますが、今、日本には一時帰国されている?
鶴本 配偶者ビザが下りず、タンザニアにいられなくなってしまったんです。
マサイ族は尊敬されている一方で、現地の人から見下されることもあって、ビザを発行する役所みたいなところで、「大して牛も持ってない彼はあなたのことを養えないでしょ。だからビザは出さないよ」と言われてしまって。
彼も私もカチンときましたけど、結局、私は日本に帰らなくてはいけなくなってしまい、経済的にも今は日本で働いた方がいいだろうということで、今はこっちで暮らしています。
――マサイに対する差別があるんですね。
鶴本 ビザの時には役所の人から差別的な扱いを受けましたけど、タンザニアの民族の中でもマサイは特別な存在でもあり、怒らせたらヤバい、みたいなイメージを持っている人も多いです。
「マサイ=屈強な戦士」というイメージ
――ライオン狩りをしていた部族としても有名ですよね。
鶴本 そういう伝統もあって、タンザニアでは、マサイ族だけは街中でも武器を携行することが許されていました。病院とかだと入口で没収されちゃうんですけど。
ジェームスもザンジバルでセキュリティとして働いていましたが、警備員として働くマサイの人が多いのも、「マサイ=屈強な戦士」というイメージがあるからだと思います。
