戯曲『芸者秀駒』を執筆中との新聞記事を読んで菊田一夫に相談に行き「人形のような生活はやめなさい」と励まされたという。手記は彼女の一方的な言い分であり、赤坂の花柳界からは「恩を仇で返した」と非難もされた。だが、「週刊読売」5月23日号の「プロフィル」欄は、「彼女のもとに旧知、未知の人から慰めと激励の手紙が山のように来ているという。その中でも、不良少年から更生した一青年の切々たる励ましの手紙は特に秀駒を感激させた」と伝えている。こうして彼女は芸者を廃業した。

舞台『芸者秀駒』の新聞批評(夕刊読売より)

 同じころ、彼女は別の問題でも新聞紙面に載る。ちょうど衆院法務委員会は1956(昭和31)年に成立する売春防止法の原型である売春等処罰法を審議中で、5月26日の理事会で、28日に菊田一夫らの参考人聴取を行うと決定。「秀駒」こと中田節子からも意見を聴くことを決めた。

 27日付読売朝刊1面コラム「白亜の表情」は「ダレ切った国会に時ならぬ脂粉の香り…とあって、早くもこの決定は代議士間で大変な前景気だった」と書いた。だが――。

ADVERTISEMENT

法務委の参考人喚問は拒否した(読売新聞より)

 28日付毎日社会面には「秀駒さん現れず」のベタ(1段見出し)記事が。

 菊田一夫氏も元秀駒の中田節子さんを連れて出席、芸者置屋の実態について一席ぶつはずだったが、2人とも姿を見せず、廊下にまであふれ出した傍聴人をがっかりさせ、旧知の議員諸氏をホッとさせた。

「真面目な結婚をしたい」

 舞台の『芸者秀駒』は日高澄子、新珠三千代の共演で同年8月6日から帝劇で上演。新聞広告には「某花街が上演を猛反対した『君の名は』の菊田一夫の問題劇!!」という文句がちゃっかり入っている。4時間余りの長編で「キワ物」とされながらも好評だった。さらに新東宝で映画化され、同時期に佐藤武監督、日高澄子主演で公開され、話題を呼んだ。

新東宝映画『芸者秀駒』の新聞広告(夕刊読売より)

「秀駒の結婚秘話」は節子に「秀駒」時代の客だった男性との結婚話が出ていると記述。同年12月の「秀駒放浪記」は、以前から客として「秀駒」と接触があった著名な興行師の男性の名を挙げ、節子が芸者を廃業する際に相談を持ち掛け「真面目な結婚をしたい」と申し込んで結婚したと書いている。芸者廃業会見と同じ5月だったようだ。

 それから30年以上たった「サンデー毎日」1986年10月5日号は、「興行界のドン」と呼ばれる夫にインタビュー。2人の間に2人の子どもがいると伝えている。「二代目秀駒」は最後に日常の幸せをつかんだということか。

結婚して家庭に入った元「秀駒」中田節子(舟橋聖一『風流抄』より)

「秀駒といふ女」によれば、日野原節三は「女と金さえあれば、天下は思うツボにはまる」が信念だったという。その通りに「秀駒」を使い、金を遣った結果、失敗したのだろう。

日野原節三の似顔絵(「政界ジープ」より)

 峯子について同記事は「幼いころから花柳界に育ち、金回りのいい旦那を持つことが最大の出世と教え込まれてきた女性が、その望みを達したのに『運が悪かった』というのが彼女の言い分なのだが……」と書いている。