(6)斜めの生地が生む魅惑のドレープ「テクネ」 1万1000円

バイアス カットソー」 1万1000円/テクネ(カナル info@texnh.jp

 ここ数年、ファッション業界では、東京ローカルのブランドが注目を集めている。中でも「テクネ」は、有力セレクトショップや百貨店がこぞって取り扱うもっとも勢いのあるブランドだ。

 デザイナーの松村力弥さんは、吉田カバンで数々の名作を手がけた凄腕。独立後、さまざまな企業で製品づくりに携わり、2020年に自身のブランドを設立した。

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 サステナブルな素材を生かした独創的なバッグデザインで知られるが、Tシャツにも知る人ぞ知る名品がある。

 2021年に発売された「バイアス カットソー」だ。

「今、大人が必要としているのは、リラックス感がありながら、一枚着るだけでたたずまいが整うTシャツ。ただ、他にはない個性がほしい」

 そんな思いを抱いたデザイナーは、身頃の生地をバイアス使いするアイデアをひらめいた。

 かつてアメリカのチャンピオン社はスウェットの身頃を横向きにするリバースウィーブという製法を編み出したが、テクネは「斜め」に目をつけた。

 生地の伸びとシルエットのねじれとのバランス、洗濯後の縮み方など、幾度となく試作を繰り返し、このTシャツを完成させたのだという。

 

 その効果は着てみるとわかる。

 バイアス使いされたカットソー生地が、人体に沿って流れるような立体的なフォルムと優雅なドレープを生み出す。

 カットソー生地は肌に吸い付くようにしなやかでストレッチ性に優れたハイゲージのコットンジャージー。

 上質な素材に加えて、身頃の生地をバイアス方向に裁断するためには、1枚ずつ行う必要があり、この生産コストによって価格が1万円を超えてしまうとか。

 デザインやグラフィック、音楽関連のクリエイターたちの支持率が高く、旅行やホテルステイの際に使うユーザーが多いという。レディース展開はないものの、サイズを選べば女性も着ることができる。

 一見シンプルなTシャツなのに、着てみると品のよさがにじみ出る。そんな粋を解する大人にぜひ。

Tシャツが「高ければいい」は間違い

 素材の希少性や機能性、ものづくりなど、さまざまな付加価値を持つTシャツを紹介してきたが、惹かれるものはあっただろうか?

 そもそもTシャツの役割自体も変わりつつある。

 これまでは他の服と重ねて着ることも多かったTシャツは、近年の猛暑の影響もあって、一枚で着る“夏のアウター”になりつつある。

 ゆえに各ブランドは、着こなしの主役となったこの服にできるだけ多くの付加価値を盛り込もうと努力するのだ。

 それに服の組み合わせをアレコレ考える必要がなく、一枚着るだけで格好よく見える服は、現代の効率主義にマッチしたものといえるだろう。

「高ければいい」というのは間違いではあるが、1万円を超えるTシャツの中には、暮らしを豊かにする機能服が存在するのもたしかだ。

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