中小・個人店の「ファミレス化」が進む3つの理由

 まずは昨今の物価高や人件費の高騰など、飲食店を取り巻く状況が厳しく、利益に対してシビアになっていること。それゆえ、経営はなるべく少ない費用で利益を上げようという方向性になる。例えば、居酒屋であれば多くの店は夕方以降しか営業しない。そして、何時間営業していようと基本的に家賃は一定だ。それを、朝も昼も営業することで売り上げを増やし、投資対効果を上げようという考えがあるのだろう。

 コロナ禍の影響もある。先述の通り、コロナ禍では飲食店の営業が大きく制限された。ディナー営業のみの店は大きなリスクを実感したはずだ。今後、アルコールを楽しむ人も減ると言われる中でのリスクヘッジも含め、ディナー営業だけでなく朝や昼などの需要を取り込むことを考えるようになった。

 最後に——これが肝であるが——広い時間帯に営業することで、多様な人材を確保できる点がある。外食業界は特に人手不足で、大手と比べて中小規模の企業・店は労働環境がまだまだ整っていないケースも散見する。よくあるのが、女性スタッフが出産や子育てによって夜に働けなくなり、夜営業がメインの店からは退職せざるを得ないパターンだ。そこで、もし同じ系列内で昼間に営業する店があれば、そのスタッフはその店舗に異動するなどして働き続けられるようになる。

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女性スタッフの声から「ファミレス化」した居酒屋企業も

 4月に渋谷でオープンした「Cherry Pick Hills(チェリーピックヒルズ)」は、まさにそうしたスタッフの働きやすさを一つの狙いとしてオープンした店だ。もともと渋谷で居酒屋2軒を運営していたグループの新店舗だが、夜の勤務が厳しくなった女性スタッフの声がきっかけとなって生まれた。朝・昼・夜、1日を通じて営業しており、メニューは幅広い品を用意し、まさにファミレスをイメージしているという。

居酒屋を運営している企業が出店したカフェダイニング「Cherry Pick Hills」は、ファミレスをイメージして生まれたという
某ファミレスの定番メニューを思い起こさせる「ドリア(温玉のせ)」
こちらも某ファミレスを彷彿とさせる、たらこパスタ。このようにファミレスを参考にした新業態を模索する個人・中小飲食店が増えてきている

 Cherry Pick Hills以外にも、同じような理由で幅広い時間帯に営業する業態に挑戦する中小外食企業の例は枚挙に暇がない。いずれも幅広いメニューをそろえており、多くはファミレスを参考にしているという。

 当然、中小企業では大手ファミレスほどのクオリティに対する安値を実現するのは難しい。しかし、大手ではできないようなひと手間や、おしゃれな空間づくりを通じて差別化している。大手とは逆に、ばく大な売り上げが必要ない分「分かる人」にだけアプローチすれば良いのは強みと言える。

 消費者の変化を受けて総合型から特化型へ変容する大手と、経営や労働環境の面から総合型へ変わる中小店。飲食業界では、その規模によって対照的な逆転現象が起こっている。

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