「立ち止まる空気と同調圧力」を広げよう

「右側で立ち止まると歩く人に迷惑だから私も歩かないと」「ルールを守る人は左だから私も左に並ぼう」という同調圧力が、「エスカレーターは歩行禁止」「エスカレーターは左右に立ち止まって乗らなければいけない」との同調圧力に変われば、これまで歩いていた人も歩きづらくなる。いや、立ち止まる人の増加によって、物理的に歩けなくなるわけだ。

空気と同調圧力にめっぽう弱い“国民性”だからこそ、潮目の変化で生じた今回の「エスカレーター歩行禁止」の機運が、一気に「空気と同調圧力」となって全国に蔓延すれば、それだけで問題は案外早く解決できるのではないかと私は思う。ただそのためには、今の鉄道各社の体たらくでは絶対に無理だ。

繰り返すが、エスカレーターをめぐる事故やトラブルを未然に防ぐために講ずべき対策を、鉄道各社は現在まったくおこなっていないといっても過言ではない。潮目が急速に変わりつつある今こそ、事故やトラブルが起きる最も危険なタイミングだ。

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大ごとが起きてから「想定外でした」「対策は講じていたのですが」などとの言い訳は、私のこの記事が配信された直後からはまったく通用しない。それだけは今、ここにハッキリと記しておく。本稿をお読みになって、鉄道各社にもっと本腰を入れてほしいと思った方は、差し支えなければ、ぜひ本稿をプリントアウトしてお近くの駅の係員までお届けいただきたい。もちろん私自身、そうするつもりである。

木村 知(きむら・とも)
医師/東京科学大学医学部臨床教授
1968年生まれ。医師。東京科学大学医学部臨床教授。在宅医療を中心に、多くの患者の診療、看取りをおこないつつ、医学部生・研修医の臨床教育指導にも従事、後進の育成も手掛けている。医療者ならではの視点で、時事問題、政治問題についても積極的に発信。新聞・週刊誌にも多数のコメントを提供している。著書に『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(いずれも角川新書)など。
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