なお、クオモと犬猿の仲であるトランプは、クオモが市長選への出馬表明を行ったのちに、コロナ禍対応についてのクオモの証言に虚偽があったとして刑事捜査を開始すると発表した。 その時期はマムダニではなく、クオモがもっとも有力な市長候補とみなされていた。

現市長は大スキャンダルを起こしたが…

 クオモ以上に問題となっているのが、現市長のエリック・アダムスだ。アダムスは前回の市長選に民主党から出馬して勝ち、2022年より市長の座にある。しかし外国からの収賄罪というスキャンダルを起こし、民主党有権者の支持を得られないことが明白になったことから独立候補となり、直接、本選に出る。

現NY市長のエリック・アダムス(本人Xより)

 アダムスはマンハッタンに建てられたトルコ領事館が入居する新築高層ビルの火災検査を免除し、見返りとして選挙資金や総額10万ドルを超えるトルコへの豪華な旅行などを提供されたとして起訴された。他国からの贈収賄は重罪だが、今年に入ってトランプが司法省に指示し、起訴を取り下げさせてしまった。

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 その時期、アダムスは何度かホワイトハウスやマールアラゴーを訪れていた。やがてアダムスは、トランプ政権下のICEによる非正規移民の取り締まりにニューヨーク市警を協働させることに合意。これが起訴取り下げの交換条件だったとして、アダムスと政権は激しく批判された。

トランプ大統領 ©時事通信社

 ニューヨーク市は非正規移民に寛容な法を持つ ”聖域都市” だが、アダムスはニューヨークをニューヨークたらしめていた一面を、刑務所を避けるために売り渡してしまったのだと言える。聖域都市法に触れる協働内容について、ニューヨーク市議会は市の監視機関に調査を開始するよう要請している。

 その後、アダムスはMAGAとして知られるセレブとともにポッドキャストに出演したり、フォックスニュースにゲスト出演するなど、独立候補と言いながら実質は共和党と呼べる選挙活動を行っている。

マムダニへの拒否感と期待

 しかしマムダニの予備選勝利の日から「アダムス再選!」の声が急に高まった。新たにアダムス支持となった有権者の詳細なデータはまだないが、人種/所得/年代を問わず、とにもかくにも「イスラム教徒の市長」を受け入れられない人々のように見受けられる。SNSには「まさか自分がアダムスを支持する日が来るとは思わなかった」「アダムスを有利にするために共和党のスリワは辞退しろ」といったポストが目立つ。

マムダニのインスタグラムより

 だが、マムダニの若く、フレッシュでフェアな市政への期待は全市に大きく膨らんでおり、その空気はアンチ・トランプとも強く繋がっている。

 11月4日の市長選まで4カ月。ニューヨークは波乱の日々に突入していく。

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