早稲田大学在学中の2020年に「渡辺まお」としてセクシー女優デビューし、2022年に引退した神野藍さん(25)。現在は会社員として働く傍ら、文筆家として活動している。そんな彼女がセクシー女優時代の「私」を赤裸々に綴ったエッセイ『私をほどく AV女優「渡辺まお」回顧録』を上梓した。
「セクシー女優だから幸せになってはいけない」という自分への呪い
神野さんがセクシー女優になったのは、「しがらみ」から解放されたいという気持ちからだった。高校時代まで「心配性の親に囲まれて、大事に大事に箱入り娘のように育てられてきた」という彼女は、上京して大学生活を始めた後、自由と制約の間でバランスを崩していた。
「知り合いからセクシー女優という話をもらった時に、『やってみたい!』と思ったんです。なぜか『ここまできたら全部やり切って終わりたい』と思ってしまって。当時はセクシー女優が光り輝いてたというか、救いに見えました」
しかし、現実は想像と大きく異なっていた。神野さんは「自由になれたようで、多分何も変わらなかった」と振り返る。むしろ肉体的な苦痛や精神的な孤独など、新たな苦しみが待っていた。
「ふとした時に、『自分の未来はこれで終わった』って感じる瞬間があって。普通の人生を歩めないというか、望んじゃいけないんだなって思っていました」
引退後も苦しみは続いた。神野さんは「元セクシー女優」という肩書きがもたらす偏見に悩まされた。「『元セクシー女優』なんだから性的な話はしていいだろうと思われることも多く、『経験人数は?』『今までで一番気持ちよかったセックスは?』とか普通だったらセクハラになる質問もたくさん受けました」
そんな質問にも「さらっと答えていました。当然だと思っていたので。私はそういう職業をしていたんだからセクハラだと指摘する権利はないんだって」と神野さんは自分を抑え込んでいた。
しかし、本の執筆過程で彼女は少しずつ変化していく。「連載を始めてから周りに『なんで普通の人生を諦めるの? 別に嫌なことは嫌って言えばいいんだよ』って言われたことが大きくて。その時に『あ、諦めなくていいんだ』って思いました」
神野さんは自分の過去と向き合うことで、自分自身を解放していった。「書くことで発散しているのもあると思います。人に話せないことや恥ずかしいことでも文字の上だと話せるので」
今回の著書について神野さんは「この本を告発本と捉えてほしくなくて。セクシービデオ業界を否定したいわけでないんです。ただありのままの感情を伝えることで、自分自身も救われるし、それが誰かに伝わったらいいなって」と語る。
「自分の人生を考えるっていうのは、別に早くても遅くてもどちらでもいいと思っていて。学校に通っていたり、仕事していたり、育児をしていたりすると、なかなか立ち止まって自分のことを考える機会がないけど、私の本を読んで一旦立ち止まって、自分の人生と向き合ったり、対峙したりしていただけたら嬉しいです」
写真= 榎本麻美/文藝春秋
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