「実家を継いでたまるか」と思っていた
――福岡では、家業の会社で働いています。その様子をSNSにアップすることも多々あり「あのアヒトさんが、サラリーマンに?」と驚く人も多いのではないでしょうか。
アヒト 実家は清掃用品や衛生用品の小売・運送業を営んでいるんです。親はいずれ僕が会社を継ぐビジョンがあったようですが、若いころはバンドに夢中でしたし「そうなってたまるか」という思いもありました。
けれど、福岡に戻ることを考えると、やっぱり家業のことがチラついて。「福岡に戻るけれど、働くことはできるか」と確認したら、ありがたいことに母から「働く気があるなら帰ってきなさい」と言われ、働くことになりました。
名刺交換すら分からないまま、40歳手前で社会人デビュー
――具体的には、どんな仕事をしているのですか。
アヒト 取引先への商品配送が7割、営業3割といったところです。新しい取引先にカタログを持っていったり、メーカーの人と同行して、商談したりしています。
――それまで、いわゆる社会人経験はあったのでしょうか。
アヒト 全然ありませんよ。40歳手前で社会に出て、サラリーマンになったので慣れるのにすごく時間がかかりました。それこそ名刺の出し方すら分からない状態からのスタートでしたから。とにかく現場に出て、お客さんが名刺を渡すしぐさやテーブルに並べているのをマネしながら「なるほど。こういう風にするんだな」と、自分なりに学んでいきました。
――今になって振り返ると「失敗した!」という出来事もありそうですね。
アヒト あります、あります! 仕事を始めたばかりのころは、見積書すら持たずに商品だけ持って取引先に行ったこととかありましたから。うちの母が結構豪快な性格で「今日、A社さんと取引があるから行ってきなさい」と、トイレットペーパーを1個だけ渡してくるんですよ。
本当なら、その商品に合わせて見積書などを用意して持っていくんですが、当時の僕は右も左も分からない。とりあえず、言われた通りに取引先にトイレットペーパーを1個だけ持って行って「これ、350円で買ってください」なんて無茶な商談をしていました。向こうからしたら、「お前、何しに来たんだよ」って感じですよね。
――働き始めて、特に大変だった業務はありましたか。
アヒト 母が社長なのですが、年齢もあってミスが多くて……。そのミスをカバーするのに、すごく労力を使います。例えば、Aという会社に配送しなければならないのを、母が伝票を打ち間違って別のところに配送してしまい、やり直しになるとかはしょっちゅうです。




