「松坂はショートだよ」と厳しい小倉部長も認めた涌井秀章

 横浜高の涌井秀章も完成度が高く、評価の高いピッチャーでした。松坂大輔のような力感はなくても、楽に投げてポンポンと抑えていくというピッチングをしていて、3年生時の水戸で行われた春の関東大会ではフォームはもう出来上がっているという印象でした。バッター目線で言うと、そんなにボールの力があるように見えなくても、いざ打席に立ってみると手元でボールが来るタイプ。コントロールも良かったですし、クイックやフィールディングもしっかり鍛えられていました。高校生のピッチャーはピッチング以外の部分で躓くことも多いので、涌井についてはそういう心配はないだろうという安心感もありました。横浜高の小倉部長は「松坂はショートだよ」みたいに、自分のところの選手を厳しく言うことが多かったのですが、涌井に対してはそんな話はありませんでした。小倉さんも涌井を高く評価していたのだと思います。

涌井秀章とダルビッシュ有 ©︎文藝春秋

7位の東野峻は「ちょっと生意気じゃないか」と言われたが…

 巨人が7位で指名した鉾田一(茨城)の東野峻は私が担当した選手でした。スカウト部長だった吉田さんが一場の事件で退任する前、「お前の担当エリアで誰か良い選手がいたら獲るから」と言ってくださって、それで推薦したのが東野でした。前年のドラフトでは私が担当した選手はいませんでしたから、吉田さんとしても何か長谷川に仕事を作ってやりたいという気持ちもあったのだと思います。東野はもちろんダルビッシュや涌井のようなレベルのピッチャーではありませんでしたが、ものすごい背筋の強さを感じましたし、スライダーの変化の仕方も面白いと思って見ていました。何より印象に残ったのは負けん気の強さ。チームの関係者や周りのスカウトからは「ちょっと生意気じゃないか」という声もあったほどでした。高卒7位という順位ながらも3年目から一軍で投げて、二桁勝ったシーズンもありましたし、開幕投手にもなりました。活躍できた期間は長くありませんでしたが、私の印象に残っている選手の1人です。

東野峻 ©︎文藝春秋

 そんな東野はトレードなどを経た後、2015年に現役を引退。その後はDeNA で打撃投手や二軍投手コーチなどをしていましたが、最近連絡をくれて「今年から巨人でアカデミーのコーチになります」と報告をしてくれました。また巨人に戻ってきてくれることが嬉しいですね。

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