プロ野球のドラフトは、選手の人生と球団の未来が交錯する運命の瞬間です。スカウトは数年にわたり選手を追い、才能だけでなく人間性も見極めます。その目が球団の命運を左右すると言っても過言ではありません。

 大洋(横浜)・巨人で長年にわたりスカウトを務めた長谷川国利さんによる『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』(カンゼン)から一部を抜粋して紹介します。(全3回の1回目/続きを読む

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由伸、清水が健在のなか指名した亀井義行

 4巡目で指名した中央大の亀井義行は、肩が強くて打つ方もミート力があり、他球団からの評価はもっと高かったと思います。スカウト部長になったのが中央大出身の末次さんだったからこそ、この順位で指名できたのではないでしょうか。この時巨人はまだ高橋由伸が中軸で野には清水隆行も健在。亀井にとっては厳しい球団に入ることになるなとは思っていました。他球団であればもっと早くにレギュラーになっていたかもしれません。ポジションが重なっても良い選手なら獲るというのは、巨人らしい指名でもあるのですが。

亀井義行 ©︎文藝春秋

 ドラフトだけでなく、ポジションに関係なく他球団の主力選手を獲ってくることも巨人ではよくあることでした。この年もダイエーから小久保裕紀が無償トレードで移籍してきていました。しかし、小久保の獲得はマイナスになりませんでした。練習に取り組む姿勢、そのストイックさは他の選手とは全く違っていました。小久保から学んだ選手も多かったと思います。2007年にFAで日本ハムから移籍してきた小笠原道大も小久保に通ずるものがありました。彼らのような選手が来ることで、若手選手に与える刺激は多かったことでしょう。こういった選手の獲得であればポジションの重なり云々は関係ないと思いましたね。

小久保裕紀 ©︎文藝春秋