1人のピッチャーが投じる様々な球種の軌道を1つの動画に重ね合わせた「オーバーレイ動画」が注目され、SNS総フォロワーが150万を超えるMLB公式アナリストのピッチングニンジャ。

 日本で初の著書となる『ピッチングニンジャの投手論』では日本人メジャーリーガーの投球を技術的な観点から徹底的に解剖し話題になっています。今回はその本から一部を抜粋します。(全3回の1回目/続きを読む

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「クセバレ」問題に順応した山本

 山本はすべてを兼ね備えていますが、メジャー移籍後に投球のクセがバレるという問題が生じました。彼が少し油断していた当初のことです。メジャーリーグでは、投手を攻略するために、相手チームは球種の手掛かりとなる投手のクセをことごとく分析します。山本は見事に同じメカニクスであらゆる球種を投げますが、メカニクス以外にも投手は投球テンポ、静止中のグラブの位置、顔の表情など、何かしらのクセがあるものです。これらすべてを詳らかにしようとするのです。

山本由伸 ©文藝春秋

 例えば、グラブの中で球を握る時やグリップを変える時に見せる、前腕の筋肉のわずかな動きをも観察しています。球場には最先端技術の備わったカメラがたくさん設置されているので、徹底的に分析した結果、「これがスプリッターを投げる時のクセだ」とわかると、即座に相手チームの打者は球種を予測できるようになるのです。

 今や“イタチごっこ”のようなものなので、投手はクセがバレては修正するということが繰り返されています。山本も同様に、この「クセバレ」の問題解決に追われましたが、ドジャースのサポートを得てしっかりと順応しました。問題らしい問題はこれぐらいなので、今後メジャーリーグで長く活躍し、サイ・ヤング賞の候補として常に名前が挙がるような投手になると思われます。本当にエリート中のエリート投手だと思います。