1人のピッチャーが投じる様々な球種の軌道を1つの動画に重ね合わせた「オーバーレイ動画」が注目され、SNS総フォロワーが150万を超えるMLB公式アナリストのピッチングニンジャ。

 日本で初の著書となる『ピッチングニンジャの投手論』では日本人メジャーリーガーの投球を技術的な観点から徹底的に解剖し話題になっています。今回はその本から一部を抜粋します。(全3回の3回目/初めから読む

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菊池はダイナミックでエネルギーに満ちている

 菊池雄星は、投球メカニクスや配球を変えることで、進化し続けている投手です。大谷翔平のように大柄でパワフルな本格派ではありませんが、自身のメカニクスや左投げというアドバンテージを最大限に活かしています。

 その投球動作は、実にダイナミックでエネルギーに満ちています。動きが速く無駄がないため、あれほどの球速を出せるのでしょう。彼は決して大きな体躯に恵まれたわけではありませんが(身長約183センチ、体重約95・3キロ)、大柄な投手にはない俊敏性と鋭いフォロースルーから、時速90マイル後半(約150キロ台半ば)のストレートや90マイル近い(約140キロ台半ば)の変化球を投げることができます。

菊池雄星 ©文藝春秋

「ドライブラインベースボール」で進化

 菊池は2019年にシアトル・マリナーズでMLBでのキャリアをスタートさせましたが、私は当初の彼をcrafty lefty(技巧派の左腕)タイプと見ていました。後述しますが、マリナーズが制作したcrafty lefty をテーマにしたCMに出演していましたしね。 

 メジャー初年度の菊池は、ストレートの球速もおよそ90マイル前半(約140キロ台後半)とそれほど速くないうえ、球速も一貫性がないように見えました。ところが、次のシーズンには見違える姿で戻ってきました。前年度はそれほど強く投げていなかったのに、驚くほど力強いフォームで球速もアップしていたのです。オフシーズンにドライブラインベースボール(Driveline Baseball)でトレーニングをしたと知り、投球メカニクスを修正したのだと合点がいきました。