スライダー・チェンジアップでさらに進化
菊池がさらに進化した理由の一つは、今まで以上に強くて速い変化球を多く投げるようになったことにあると思います。具体的には、同年夏にアストロズに来てから、彼は変化球の投げ方を変えていて、カーブの使用を減らしました。特にスライダー、またチェンジアップのような速い変化球を増やしています。
最近の投球理論では、遅いカーブのような球種より速い変化球のほうが効果的だと考えられています。そうした配球のバランスが奏功したのでしょう。もう一つは、アストロズのような強豪チームで優れた投手たちとチームメイトになったことが大きいのではないかと思います。アストロズは、2023年シーズンまで7年連続でチームが最低でもリーグ優勝決定戦まで進出している常勝軍団です。居並ぶ投手陣もチーム戦略を担うスタッフも、トップレベルが揃っています。そうした環境下で多くを学び、さらなる成長を遂げたのだと思われます。菊池は何事にも真摯に取り組んで、完璧なチームメイトになろうと努力をする姿勢が窺えます。コーチたちも、彼の真剣な姿勢をとても評価しています。
ただし、菊池は決して、真面目一辺倒ではありません。折々で情熱的な内面をあらわにするところがまた魅力的です。マウンド上では競争心と集中力を高めている様子が、ラウンド間のボクサーの様子を彷彿とさせるほどで、見ていてとても引き込まれます。投球後に色々なポーズでフィニッシュして、感情をあらわにする姿も印象的です。
「Kストラット」がピッチングニンジャのお気に入り
私のお気に入りは、強い球を投げたり、三振を奪ったりした後、フォロースルーの勢いそのままに左足を大きく振り上げる動作です。ガッツポーズなどの力強いKストラット(K-strut:三振後の自身に満ちたパフォーマンス)で締めくくる姿です。菊池は相手を挑発したいという意図などなく、純粋に良い投球をした時、特に三振に仕留めた時に本当に嬉しそうにしているのが伝わってきます。逆に良くない投球だった時には、自分自身に失望したような表情も見せます。とても自然で、これこそが勝負を愛しているトップアスリートの姿だと思います。
メジャーリーグでは伝統的に、選手は派手な感情表現をせず、常に謙虚で冷静に振る舞うべきだという慣習がありました。どんなに緊迫した場面や決定的なシーンでも、「これまで何度も経験してきたことの一つにすぎない」と平然とすることがプロらしい振る舞いとされてきたのです。しかし、最近はそうした風潮も大きく変わってきました。若い世代の選手や国際的な影響を受けた選手たちが、パフォーマンスやジェスチャーを自由に取り入れてきたため、タブー視する考えも少なくなりました。打者がバットフリップを、投手がKストラットを見せることは好意的に受け入れられてきています。そもそも、サッカーやアメフト、バスケットボールなど、他の人気スポーツには存在しない“タブー”です。ゴルフですら重要なショットを決めれば、選手たちはガッツポーズをするのに、なぜか野球では許されてきませんでした。不思議なことですよね。

