1人のピッチャーが投じる様々な球種の軌道を1つの動画に重ね合わせた「オーバーレイ動画」が注目され、SNS総フォロワーが150万を超えるMLB公式アナリストのピッチングニンジャ。
日本で初の著書となる『ピッチングニンジャの投手論』では日本人メジャーリーガーの投球を技術的な観点から徹底的に解剖し話題になっています。今回はその本から一部を抜粋します。(全3回の2回目/続きを読む)
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アメリカでは多くの人が「ピッチングはやめれば?」
アメリカでは多くの人が「もうバッティングだけに専念して、ピッチングはやめれば良いのでは?」と言っていますが、私は思わず「ちょっと待ってくれ! 何を言っているんだ!」と声を上げました。大谷は、時速102マイル(約164キロ)もの速球を投げるだけでなく、とんでもない変化球をいくつも持っています。そのうえ、他のどんな投手よりも新しいことを覚えるのが早いのです。才能に恵まれながら、随一の競争心も持ち合わせていて、絶え間なく自身の持てる技術を高め続けています。彼がメジャーリーグで最も優れた投手の一人であることは疑いようがありません。
大谷が投げる球種で、最も支配的な球として注目されているのはスウィーパーです。“魔球”とも呼ばれていますね。彼のスウィーパーは、球速が速いにもかかわらず大きく水平方向に動きます。平均すると約84マイル(約135キロ)のスピードで約16インチ(約40センチ)ですが、定期的に22インチ(約56センチ)もの変化量を叩き出しています。スピードを保ちながら打席目前で大きく横に動くのです。前述の通り、近年の打者はフライボール革命の影響で、すくい上げるようなスイングを採用する傾向が強く、従来の縦に曲がるスライダーでは打者のスイング軌道に重なりやすくなるため、長打を浴びるリスクが高くなります。しかし、スウィーパーのように横方向へ大きく動く球種では、そのリスクが大幅に軽減されます。そもそも、打者がなかなか見慣れることのない変化を伴っているので、対応するにも困難を極めます。
