「100マイルシンカー」を新たに習得
2022年から大谷はシンカーを投げていますが、もともと彼はシンカーを投げてはいませんでした。ところが、同じく魔球と呼ばれたクレイ・ホームズのシンカーを見て、「自分にもできる」と球種に加えることにしたようです。
2022年からヤンキースで3年連続20セーブをあげたホームズ(2025年からはメッツで先発に転向)は、屈指の完成度を持つシンカーの使い手です。彼のシンカーは100マイル(約161キロ)にも達する驚異的な球でした。大谷は打者として、打席で彼の球を目の当たりにすると、スコアボードで球速を確認して、ちょっとした表情を見せました。その顔は「ん!? 今のは凄い球だぞ」と物語っていました。打者として、そのシンカーを打つことがどれほど難しいかと実感したのでしょう。ところが、ほどなく大谷も100マイルで大きく変化するシンカーを投げていました。驚くべき学習能力です。
私は、バッターとしての大谷と、ピッチャーとしての大谷は、互いに好影響を与え合っていると思います。彼はダルビッシュほど、あらゆることを深く考えて分析するタイプではありませんが、特別すぎるほどの才能と競争心があります。打者としての経験値も積んでいます。それらが彼のピッチングをも、未曾有のレベルに引き上げているのです。
2025年はスプリッターを増やすのでは?
スウィーパーがとにかく話題に上がりがちですが、大谷は信じられないほど素晴らしいスプリッターも持ち合わせています。制球こそ完璧ではありませんが、球があまりに強く急激に動くため打者は打つことができません。
ところが、非常に効果的であるがゆえ、多投しては指にマメを作っていたようです。それで頻繁に投げられる球種ではないと気づいて、スウィーパーを投げ始めたのだと思われます。先にも述べたように、彼のスウィーパーは、驚くべき変化を誇る本物のスウィーパーです。ただ、こちらも2023年は全投球の35パーセントと多投したため、打者が予測できるようになって、打たれる場面も見られました。それを見てアメリカでは「大谷の最高の球はやはりスプリッターではないか?」といった議論も起きたほどです。
大谷はただただ、圧倒的なアスリートで異常なほどの変化を生み出す能力を持っています。凄まじい動きのある変化球に加えて、102マイル(約164キロ)の速球が来るかもしれないと構えるのですから、打者は本当に大変です。大谷に改善できる点を挙げるとすると制球力ですが、彼に精密機械のようなコントロールが備わったら地球上の誰も敵わないでしょう。しかしながら、大谷は「二刀流」なので、他の選手の二倍は働かなければなりません。打者として準備し、投手としても実戦に向けて仕上げていることの大変さを忘れてはならないと思うのです。
私は大谷が投手として復帰した2025年シーズンは、もう少しバリエーションを持たせて、スプリッターをもっと増やすのではないかと見ています。やはり彼の球種で一、二を争う素晴らしい球ですから、使わない手はないと思うのです。大谷はよく学ぶ選手なので、より予測しづらい投球を組み立てて、投手としてもさらに上のレベルに到達すると思います。

