“スウィーパーブーム”のきっかけはクルーバーとバウワー

 ストライクゾーンをスウィープ(Sweep= 掃く)するように曲がるスウィーパーですが、以前まではスライダーとして分類されていました。

 スライダーには様々な種類があって大別すると、大きな落差を伴う球、縦と横の変化による球、そして横の水平方向に動く球の三種で、スウィーパーは最後の水平方向に大きく曲がる球を示します。

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 過去には、ヤンキースなどで活躍し、現在は解説者のデビッド・コーン、サンフランシスコ・ジャイアンツなどで活躍したセルジオ・ロモらが、水平方向に大きく曲がる“スライダー”を武器としていました。私が思うに、今に繋がる“スウィーパーブーム”のきっかけとなったのは、おそらく二度のサイ・ヤング賞に輝いたコーリー・クルーバー(クリーブランド・インディアンス他)の投げていた大きく横に動く球でしょう。彼はツーシームの握りでスライダーを投げることを見出し、これを最先端の設備で分析や研究をして実装したのが、トレバー・バウワーです。バウワーは同時期にインディアンスでチームメイトとなり、サイ・ヤング賞を一度獲得しています。

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“魔球”とも呼ばれる大谷のスウィーパー

 野球界では長年、投球に“動き”を引き起こす要因はマグヌス効果のみと考えられてきましたが、新たにシームシフテッド・ウェイクのようにボールの縫い目による力学的現象が明らかになりました。

 スウィーパーはこの現象が大きく影響しています。私はシームシフテッド・ウェイクを世に知らしめた航空宇宙工学のバートン・スミス教授(現在はロサンゼルス・エンジェルスでコンサルタントを務める)とも話しましたが、変化を引き起こすにはボールを何らかの形で非対称に握ったり、中心からずらした握りで投げたりします。多くのスウィーパーは、ツーシームの握りを使用し、このシームシフテッド・ウェイクを最大限に活用することで、他のスライダーにはない独特な横変化を実現しています。このような流れを受けて、MLBではスウィーパーがスライダーとは別の独立した球種として分類されるようになりました。

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 大谷の話に戻りましょう。彼は野球に関することには何にでも勉強熱心で新しい技術を身につけることに貪欲なので、魔球とも呼ばれるほど変化量の大きなスウィーパーを習得したのでしょう。2023年のWBCでも、ダルビッシュ有とこの球種について談義していた様子が中継でも捉えられていました。新しい球種を覚えることにも余念がないのです。