「利益率にはこだわっていません」
中村は最初、友人数人とアパートでせどりを続けるが、すぐに書籍を置く場所がなくなり、生まれ故郷の上田に戻って物流センターを立ち上げる。2007年に会社を設立。初年度の売上高は8000万円。それが直近の決算(2017年6月期)では、22億円にまで伸びた。しかし、経常利益は2000万円前後で、売上高比率にすると1%前後と低空飛行を続ける。
「はっきり言って、利益率にはこだわっていません。儲かった分は、自分たちがおもしろいと思えることや社会貢献に使います。もちろん、会社なので儲からないとダメ。それがビジネス上のルールです。けれど、儲けるということをクリアできたら、あとは、できるだけ楽しいことや、嬉しいことをやりたい。売上高が上がって嬉しいということは、“社会貢献をして、皆にほめられると嬉しい”、“他の企業とは違ったことをして注目を集めることができて嬉しい”といった感情と、ボクの中では同一線上にあるんです」と中村は言う。
バリューブックスが、他の古本屋と比べて、一頭地を抜いて成長を続けているのは、地元である長野の企業やNPOなどと連携し、地域社会に付加価値を生み出している点だ。
最近では、長野県にある20店舗のスターバックスに古本の寄付専用ボックスを設け、売上を障害福祉サービス事業を行うNPO法人「リベルテ」(長野県・上田市)に寄付するプロジェクト(6月27日~9月30日)の協力企業として名を連ねている。
バリューブックスは、こうしたユニークな企画に携わり、自らニュースを発信することで、書籍と親和性の高い文化的な要素をアピールしながら、自社の立ち位置を確立してきた。
同社の独自の試みの一つとして、中村自身が発案した〈charibon(チャリボン)〉がある。NPOやNGOなどのファンドレイジング(寄付集め)を手伝う活動だ。古本の送り手が、NGOやNPOを指定して、買取額を寄付するという仕組み。また、移動式本屋である〈ブックバス〉の運営も手掛ける。昨年、中古の移動図書館のマイクロバスを、クラウドファンディングで130万円以上を集めて購入し、改装した。その〈ブックバス〉に2000冊超の古本を積み込み、書店のない近隣の軽井沢や白馬で臨時の古本屋を開業する。また、ブックバスを使って保育所や老人ホームの図書館などに古本を寄付したりする。
さらに、上田駅近くで〈BOOKS & CAFE NABO(ネイボ)〉という古本屋兼喫茶店を開業している。NABOとは、デンマーク語で隣人という意味で、英語のneighborに相当する言葉。3カ月に一度は、棚に4000冊ある古本を全面的に入れ替える。雑貨と一緒に販売する。絵本の読み聞かせから、地元のバンドのコンサート、手芸教室など、毎日、イベントを開催している。
古本屋の店舗が経営したかったという中村は、「開店した当初は、本を並べたり、レイアウトを考えるのがおもしろくって、毎日、店舗に顔を出していました」と話す。