大阪の新世界エリアから堺市へ南北に延びる阪堺電車(阪堺線)の始発駅にあたる、恵美須町駅から歩いてすぐ。南海高野線の今宮戎駅から歩いても数分だが、通天閣にもほど近いこのあたりは、いかにも大阪の下町である。そして今回のお目当ての店もまた、ほどよく枯れた雰囲気の外観が魅力的なのであった。

期待大の店構え

 鮮やかな朱色のテントには、白く抜かれた「中華料理 一楽」の文字。金色の中国格子風引き戸も昭和テイストで、本来なら商品サンプルが並んでいるはずのショーウィンドウが半分、エアコンの室外機に塞がれてしまっているあたりも味わい深い。

 いかにも、頑固そうな親父がいそうな店構えである。そのわりに立て看板の「いらっしゃいませ!! ちょっと一杯いかがですか??」という文字だけが妙にかわいらしいが、これはアルバイトの若者が書いたものだろうか。

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 いずれにしても、ここを素通りするという選択肢はない。ギロッと睨まれるかもしれないが、意を決して引き戸を開けてみよう。

年季の入ったカウンターが出迎える

 店内は右側にL字型のカウンター、その向こうが厨房という一般的なつくり。カウンターの色はもともと鮮やかな赤だったのだろうが、時代の経過とともに色が落ちてきたことがわかる。

 さらにぐっと心をつかまれてしまうのは、左側の壁に貼られた黄色い品書きだ。鮮やかな色合いが店内のいいアクセントになっており、よく見れば「老麺(ラーメン)」「肉片湯(肉スープ)」という具合に表記の基本は中国語だ。

肝心の頑固そうな店主がいない

 うーん、なんだかいろいろと渋い。頑固な店主のこだわりが見て取れる……のだけれど、肝心なその人が見当たらない。愛想のいい40代くらいの店員は、はたして2代目だろうか。もっと若く見える女性はアルバイト?

 謎は深まるばかりだが、とりあえずビールとギョーザを注文し、さらに人気の品を聞いてみた。なにしろメニューを見る限り、品数がとても多いのだ。

「よく出るのはね、この『玉子と肉の炒め』。あとは『麻婆豆腐』とか。天ぷら系とかもよく出ますね、『かしわ天』」

 では、「玉子と肉の炒め」と「かしわの天ぷら」、それから「玉子まきあげ」もいただこう。